
もしも地獄のフタが開いて、ゾンビの大群が人々に襲いかかってきたら世界はどうなるだろうか? 少なくとも各国の軍隊は米軍に学ぶべきかもしれない。米軍には、対ゾンビ戦を想定した作戦計画があるのだ。
この軍事計画は「CONPLAN 8888-11」という。
これは、2011年4月30日に「アメリカ戦略軍(USSTRATCOM)」によって策定されたもので、国民の保護・重要インフラの防衛・ゾンビの根絶などについての詳しい行動計画が定められている。
アメリカ戦略軍は、核兵器による抑止・防衛・警戒を目的とする部隊だ。その部隊が対ゾンビ計画を策定するってどういうこと?その理由を見ていこう。
対ゾンビ軍事作戦は、若手将校向けの学習教材
その不穏さとは裏腹に、CONPLAN 8888-11[https://documents.theblackvault.com/documents/controversies/CONPLAN8888-11.pdf](概念計画8888-11)は、若手将校を訓練する教材として策定されたと説明されている。
当時、仮想の舞台としてチュニジアやナイジェリアが採用されるのが慣例だったが、実在の国だといろいろ不都合があったようだ。
またゾンビの大量発生という設定が、思いの外、教材として優れていたことも採用の決め手なったようだ。
(おそらくは)あり得ない馬鹿馬鹿しいシナリオであるがゆえに、学生たちはのびのびと軍事作戦を学習することができる。
CONPLAN 8888-11では、こう述べられている。
実際の計画と誤解されることのないよう、完全にあり得ないシナリオを採用した
あまりにも馬鹿げているため、学生は講義を楽しみ、同時に計画と命令策定の基本概念を効果的に学習できた
ゾンビ襲来、そのとき軍はどう行動するべきか?
ただ、ゾンビが襲来した時に生き残る術を知りたいと思っている人は、CONPLAN 8888-11に肩透かしをくらうかもしれない。
同計画が主眼としているのは、敵の識別、食料・電力・医療などの重要インフラの指定、友軍の調整などで、直接的な戦闘に関するものではないからだ。
それでも、それを読めば多少なりともサバイバルの確率を上げられるかもしれない。あるいはアメリカ疾病管理予防センターのゾンビシナリオの方がサバイバルには有効かもしれない。
CONPLAN 8888-11では、映画やゲームなどに登場するゾンビの知識をベースに、ゾンビにはいくつか種類があると想定している。
たとえば、ウイルス感染や放射線による変異で誕生するゾンビはお馴染みだろう。人間によって兵器として開発されたゾンビ、あるいは魔法によって不死化したものや、地球外生命体もある。
さらに肉食ではなく、草食性ゾンビも考えられる。こちらは直接的な危険度は低くとも、人間の食料を食い尽くしてしまうという点で、やはり放置できない相手だ。
同じゾンビでも、この類型によってそれぞれ対応の仕方が違ってくるはずだ。
だが1つ想定できるのは、どんな動物でもそうであるように、ゾンビは食べ物(大抵の場合は人間だろう)が見つかる場所に向かうということだ。だとするとゾンビは都市や水源(その周囲に人間がいる)に集まると予想される。
だが、そうした移動にゾンビが車を使うことはない。おそらくは徒歩での移動になるだろう。一方、兵士や難民を含め、車を使う人間にとっては道路が不可欠のインフラとなるため、その防衛が重要な課題となる。
ゾンビとの戦いに不可欠なのは周到な準備
CONPLAN 8888-11は、ゾンビ鎮圧のために複数のフェイズを想定している。
そして最初のフェイズは、アウトブレイク前にすでに始まっている。アメリカ戦略軍などの諜報機関が、ゾンビ化を引き起こす恐れのある病原体やその媒介者を常に監視しておくのだ。
さらにゾンビを作り出そうという何者かによる怪しからぬ企ても常に抑止されねばならない。
CONPLAN 8888-11によれば、その際「ゾンビは認識能力を持つ生命体ではないことに注意することが重要」であるという。つまりゾンビと交渉したり、説得して殺人をやめさせようとしても無意味ということだ。
相手にすべきなのは、ゾンビ開発を目論む国家や企業、あるいはテロリストといった組織だ。そうした相手なら軍事力の行使も有効だ。
ただし、実際に軍事行動をとる際、ロシアや中国といった国々にあらぬ疑いをかけることがあってはいけない。
そこでCONPLAN 8888-11は、そうした国の指導者が米軍の「ゾンビ対策準備を戦争準備と誤解しないように、信頼関係の構築が重要だ」と警告する。
アメリカ戦略軍の本格的な攻撃が始まるのは、アウトブレイク後40日以内が予定される。ゾンビが駆除されれば、速やかに被害の状況を評価し、再び市民が中心となって活動できるようにする。
なおアメリカ戦略軍は、ゾンビの大群に対抗できるような地上戦闘部隊を保有していないという。そのため、実際にゾンビと交戦するのは、米空軍・宇宙軍・海軍といった部隊になると、CONPLAN 8888-11では想定している。
また、このときの攻撃には、核兵器が使用される可能性もある。
ゾンビは人なのか? ゾンビへの軍事力行使に関する法的問題
米軍でゾンビの大群を鎮圧する際、大きな問題となるかもしれないのが、法的な側面であるという。
反乱法(Insurrection Act)や民警団法(Posse Comitatus Act)などの法律は、国内問題に対処するにあたって、軍の使用を厳しく制限している。そこで考えねばならないのは、ゾンビがもともと人間であるということだ。
アメリカ市民がゾンビ化した場合、彼らは依然としてアメリカ市民なのか? それとも駆除しても構わない病原体や非生物とみなされるのか? その解釈次第で、憲法上の権利や人権、戦争に関する国際条約や国連憲章に抵触する恐れがある。
これについてCONPLAN 8888-11は、関連法が規制するのは「人間・動物に対する軍事行動のみ」であると主張している。
したがって、ゾンビが非生命体や病原体、あるいは有機ロボットなどとみなされるなら、戦争法が問題となることはない。
このようにゾンビの襲来を現実のものとしてあれこれ思案するのは楽しいが、はたしてCONPLAN 8888-11は本当に実戦で役に立つのだろうか?
さすがの米軍もゾンビとの戦闘経験はないが、西アフリカでのエボラ出血熱アウトブレイクなど、感染症の対応に携わったことがある。
また災害への対応についても豊富な経験がある。こうしたことを踏まえるなら、案外ゾンビの大群も迅速に鎮圧できるかもしれない。
狂犬病ウイルスが変異し、人類を攻撃的なゾンビに変貌させる可能性があるとするイタリアの研究もある。
いずれにせよ、その答え合わせをする日が来ないことを願おう。
References: CONOP 8888: The Pentagon's Actual Zombie Defense Plan[https://allthatsinteresting.com/conop-8888]