
1934年に撮影されたとされるネッシーの写真は捏造だったことが判明しているが、それでもいると信じたいロマンあふれるUMA、それがネス湖のネッシーだ。
20世紀から現在に至るまで、何度も目撃証言や映像が報告されてきたが、決定的な証拠は一切見つかっていない。
それでもネッシーを求めて湖を訪れる人は後を絶たず、調査隊が最新技術を駆使して探索を続けている。
この長年の論争に対し、オックスフォード大学の動物学者、ティム・コールソン博士は『生物学的にありえない』と結論づけ、科学的な視点から否定した。
果たして、ネッシーはただの幻想なのか? それとも、科学では説明できない未知の存在なのか?
ネッシーとは何か?
まずはネッシーに関する基本情報をおさらいしよう。
スコットランドのネス湖は、長さ約37km、最大水深230m以上の広大な淡水湖だ。霧が立ちこめる神秘的な風景とともに、古くから「ネッシー」という謎の巨大生物が潜んでいると語り継がれてきた。
ネッシーの存在が広く知られるようになったのは1933年。当時、湖畔の道路が改修され、観光客や地元住民が湖の様子を目にする機会が増えたことで、巨大な生き物を目撃したという報告が相次いだ。そして翌年、決定的な証拠と思われた写真が発表される。
それが、1934年に撮影された「外科医の写真」だ。長い首を水面から突き出したようなシルエットは、まさに恐竜・プレシオサウルスのように見えた。この写真によって、ネッシー伝説は一気に世界中へと広がった。
しかし1994年、この写真は捏造だったことが判明する。撮影者の関係者が1993年、「これはおもちゃの潜水艦を使ったトリック写真だった」と告白したのだ。
発見できないのは理由がある、いないからだ
「なかなか発見に至らないのにはちゃんとした理由がある」と語るのは、オックスフォード大学の動物学教授ティム・コールソン氏だ。
長年ネス湖の怪物伝説を詳しく調べてきたコールソン氏曰く、この生物が存在するのは「生物学的に不可能」だという。従ってネッシーは存在しないという。これで一件落着なはずだ。
コールソン氏はネッシーを目撃した人たちが嘘をついているとは思っていないが、それらしく見えるものと見間違えているだけだという。もちろん、中には作り話も混じっているだろうが。
ネス湖の怪物の場合、浮遊している何かの残骸や、長い首をもつ鵜のような海鳥が水面に浮かんでいるのを見ただけでしょう
ありえないと思うかもしれませんが、驚くほど人は大きさを判断するのが苦手です。特定の生き物を見たい見たいと望んでいる場合はとくにね(コールソン氏)
だが、コールソン氏はネッシーの存在を声高に否定しているわけではない。現時点でわかっていることに基づくと、あのような生き物の存在を信じるに足る科学的根拠はないと確信しているだけだ。
存在しないとされる証拠を検証する
コールソン氏は、ネッシーが存在しない議論の一環として、この生き物の死骸、つまり骨がこれまで見つかっていないこと、誰も捕らえた者がいないことを挙げている。
ネッシーが存在する証拠をつかもうと、人々はネス湖に押しかけてくるが、まだ決定的な証拠は見つかっていない。ソナーや水中探知機を装備した船を使って捜索しているにもかかわらず、状況は変わらない。
本当にネッシーが存在するなら、血肉をもつ巨大な生き物が存在するなんらかの具体的な証拠がこれまでに見つかっているはずだとコールソン氏は主張する。
それが一切ないという事実の最も合理的な理由は、そもそもそんな生き物は初めから存在しないからだというのだ。
ビックフットやイエティの存在も科学的に証明されていない
コールソン氏は、科学記者を務める雑誌『ザ・ヨーロピアン[https://the-european.eu/story-41724/sorry-folks-bigfoot-nessie-and-the-yeti-dont-exist.html]』に寄稿した新しい記事の中、ネッシーだけでなく、ビッグフットやイエティなどのほかの未確認生物(UMA)についても矛先を向けている。
「私はビッグフットやイエティ、ネッシーやその他の未確認生物が本当に存在して欲しいと心から願っているが、科学的証拠はそうではないことを示している。
こうした生き物たちが何千年もの間、森や山や湖に大量に生息し、骨や化石、皮膚サンプルをひとつも残さない可能性は到底受け入れられないからだ(コールソン氏)
また、コールソン氏は進化論の観点から、生息域が限られていて、個体数が非常に少ないために何世紀にもわたって人間に発見されるのを逃れてきた可能性がある場合、そのような生物がどうやって生き延びられたのかを説明できる現実的なシナリオはないと主張する。
こうした種の存在と長期の生存を決定する生物学的、進化的要因を考えると、その可能性は非常に小さくなり、私たち人間の純粋に楽しい想像の産物にすぎないときっぱりと否定できるようになる(コールソン氏)
21世紀の現代にネッシーのような未確認生物が実在する可能性は、コールソン氏の胸の内では科学的には完全に否定されている。
科学では説明のつかない何か、なのか?
しかし、この考え方には問題があると主張する人もいる。コールソン氏の主張は「ネッシーが実在するなら、通常の動物でなければならない」という前提に基づいているが、そもそもネッシーは単なる未発見の生物なのだろうか?
未確認生物研究者の中には、ビッグフットやイエティなどのUMAが、「異次元の存在」ではないかと考える者もいる。
彼らによれば、こうした生物は異なる次元や現実から現れ、一時的にこの世界に物理的な形を持つが、完全に観測される前に消えてしまうのだという。
この説を支持する人々は、ネッシーが目撃されても決定的な証拠が残らない理由は、ネッシーが「通常の動物」ではなく、「異なる現実から現れる存在」だからだと説明する。
そして、この説をさらに興味深いものにするのが、ネス湖が関係している「もう一つの怪物」の存在だ。
悪魔召喚とネッシーの関係? アレイスター・クロウリーの儀式
ネス湖には、ネッシーとは別の「怪物」がいた。それは、「世界で最も邪悪な男」と呼ばれた魔術師、アレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%83%AA%E3%83%BC]である。
クロウリーは1899年から1913年にかけて、ネス湖畔にあるボレスキン・ハウス(Boleskine House)に住んでいた。
彼は自らを「反キリスト」と名乗り、「この世で最も邪悪な男」と評されたオカルト研究者だった。クロウリーはこの館で、悪魔や異世界の存在を召喚するための儀式を数多く行っていたとされる。
クロウリーが行った儀式の中には、「アブラメリンの儀式(Abramelin Operation)」と呼ばれるものがある。
これは数カ月にもわたる禁欲と祈りを伴う大規模な魔術儀式であり、天使や悪魔と交信することを目的としていた。
しかし、この儀式は途中で中断され、クロウリーはボレスキン・ハウスを去ることになった。オカルトの世界では「不完全な儀式は予期せぬ結果をもたらす」とされるが、果たして彼の行為がネス湖に何らかの影響を与えたのだろうか?
この説を支持する者たちは、「クロウリーの魔術が異次元の扉を開き、ネッシーのような存在をこの世界に引き寄せたのではないか」と考えている。
実際、ボレスキン・ハウスを訪れた人々の中には、不可解な体験をしたという証言が多数残されている。
「邪悪な気配を感じた」「見えない何かに襲われた」といった報告は後を絶たず、ネッシーの正体が単なる未確認生物ではなく、もっと異質なものではないかという説を補強する形となっている。
もちろん、こうしたオカルト的な説は科学的に証明されていない。
しかし、「ネッシーは普通の動物ではない」と考える人々にとって、ネス湖は単なる湖ではなく、異世界へとつながる特別な場所なのかもしれない。
ネッシーのようなUMAの存在が人間にとって必要な理由
言うまでもなく、コールソン氏のような科学者は、ネッシーの存在を超常現象などで説明しようとする傾向をナンセンスだとして否定するだろう。
それが正しいのかもしれないが、現代の科学的パラダイムや現実についてのコンセンサスに合わないからといって、その可能性を完全に退けてしまうのは、人間の想像力を制限することになってしまう。
ネッシーやビッグフット、イエティの目撃情報が報告され続ける限り、それらが実在するかもしれないという余地を少なくとも残しておくべき理由はある。
「現実」という言葉が実際になにを意味するのかについて、私たちの概念を歪めるような形になるかもしれないが。
アーサー・コナン・ドイルは自らが作り出した名探偵シャーロック・ホームズに「すべての不可能なものを取り除けば、残ったものがどんなにありえそうもないことでも、真実に違いない」と言わせている。
ドイルはこの原則を自分の現実の人生にも当てはめ、目撃情報や経験に基づいて、最終的に妖精は存在すると結論づけた。
そして何十年もかけて、妖精が存在する証拠を探し求めた。
純粋に科学的な観点からは、ネッシーの存在は極めてありそうにないと思えても、実在の証拠を相変わらず探し続けることはそれほど道理の通らないことではないのかもしれない。
References: Sorry folks: Bigfoot, Nessie, and the Yeti don’t exist – The European Magazine[https://the-european.eu/story-41724/sorry-folks-bigfoot-nessie-and-the-yeti-dont-exist.html]