
これまでの研究から、マイクロプラスチックは人体のほぼあらゆる場所に入り込むことが明らかになっている。では体内のマイクロプラスチックはどうなるのか?
米国ニューメキシコ大学の研究チームが、2016年と2024年の人体解剖から得られたサンプルを分析したところ、プラスチック粒子が長期的にわたって体内に蓄積することがわかった。
特に脳内には、マイクロプラスチックやナノプラスチックが大量に蓄積しており、腎臓や肝臓と比べると、最大で30倍にもおよぶという。
人間の脳内のマイクロプラスチック濃度が増加
ニューメキシコ大学の保健学者アレクサンダー・ニハート氏率いる研究チームは、2016年に死亡した28人と2024年に死亡した24人、合計52人の検死体から、脳、肝臓、腎臓の組織を分析した。
その結果、すべてのサンプルにマイクロ・ナノプラスチックが含まれていたことがわかった。特筆すべき点は、脳に含まれていたプラスチックが、肝臓や腎臓の7~30倍もあったことだ。
これは意外な事実だ。腎臓や肝臓は体内の老廃物をろ過する役割があるため、体の中を循環するプラスチック粒子が流れ込んできてもおかしくはない。
だが脳には「血液脳関門」という防御機能があり、有害な物質が脳に侵入するのを防いでくれるはずなのに、プラスチック粒子は、このバリアを突破して脳内に蓄積していたのだ。
事実、2024年4月にウィーン大学が行ったマウスを使った研究によると、極小のマイクロ・ナノプラスチックが、摂取後わずか2時間後に脳内で検出されたという。
極小のプラスチック粒子はたやすく脳内に侵入できてしまうようだ。
さらに、1997年から2013年の間に米国東海岸で死亡した人々の脳組織のサンプルと比較してみたところ、1997年以降、脳内のプラスチック粒子がはっきりと増加していることが確認された。
最も多く検出されたプラスチックはポリエチレンで、これはスーパーのレジ袋や食品・飲料の包装に広く使用されているものだ。粒子全体の約75%を占めていたという。
また、認知症を患っていた人の脳では、そうでない人の脳と比べて、マイクロプラスチックの濃度が6倍にも達していたこともわかった。
研究チームによると、認知症が進行すると脳の一部が萎縮したり、血液脳関門が弱まったりすることがある。このため、脳内にたまるマイクロプラスチックの量が増える可能性があるという。
ただし、マイクロプラスチックが認知症を引き起こす原因であるかどうかは、まだ分かっていない。
広がり続けるプラスチック汚染
Our World in Data[https://ourworldindata.org/grapher/cumulative-global-plastics]によると、1950年から2019年にかけて、世界では90億トン以上のプラスチックがさまざまな用途に利用されてきたという。
そうしたプラスチックはだんだんと破片になり、さらに微細な粒子にまで砕けていき、直径5mm以下のマイクロプラスチックや、更に小さい、直径1μm(マイクロメートル)以下のナノプラスチックになる。
今回の研究を行ったニューメキシコ大学の保健学者アレクサンダー・ニハート氏は、そうしたマイクロ・ナノプラスチックが「過去半世紀にわたり急激に増加している」と論文[https://doi.org/10.1038/s41591-024-03453-1]で指摘する。
塵のようになったプラスチック粒子は、この地球上のありとあらゆる場所に入り込む。それは人間をはじめとする生物の体内ですら例外ではない。
近年の研究で、人間の血液から脳、心臓、精巣に至るまで、あらゆる臓器に入り込むことが明らかとなっている。
プラスチック粒子が人体に与える影響は?
現時点で、こうしたプラスチック粒子が健康に与える影響はまだ明らかになっていないが、いくつかの研究でその可能性が示唆されている。
ニューメキシコ大学の2025年1月30日付の研究論文[https://www.eurekalert.org/news-releases/1071500]によれば、早産児の胎盤には正期産児に比べて高濃度のマイクロプラスチックとナノプラスチックが蓄積していることが判明しており、それが早産リスクに関与している可能性があるという。
また中国環境科学研究院の2025年1月22日付の研究論文[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adr8243]によると、マウスの脳で、マイクロプラスチックと脳梗塞との関連が確認された。
他の専門家の意見は?
この研究には関与していない英国エクセター大学のタマラ・ギャロウェイ教授は「脳内のマイクロプラスチックがこの8年間で50%も増加したというデータは、プラスチックの生産量や使用量の増加と一致しており、非常に重要な発見だ」と指摘する[https://theconversation.com/while-plastic-dominates-human-consumption-the-global-economy-will-remain-hooked-on-fossil-fuels-247393]。
「環境中のマイクロプラスチック汚染を減らせば、人間の体内に取り込まれる量も減る可能性があり、汚染を抑える技術革新が求められる」と述べた。
一方、オーストラリアのRMIT大学のオリバー・ジョーンズ教授は、「この研究は非常に興味深いが、サンプル数が限られている点や、微細なプラスチック粒子の分析が汚染の影響を受けやすい点を考慮すると、結果の解釈には慎重を期すべきだ」と警告している。
この研究を行ったニハート氏ら研究チームは、プラスチックの人体への影響についてさらなる研究が必要だと強調する。
「私たちはすでに、プラスチックを毎日体内に取り込み続けている。プラスチックの生産が今のペースで増え続ければ、2040年までに石油需要の95%をプラスチックが占めるようになるという試算もある」と指摘する。
マイクロプラスチックが人間の健康に与える影響をより明確にするためには、今後さらに大規模な研究が必要だろう。
この研究は『Nature Medicine[https://www.nature.com/articles/s41591-024-03453-1]』(2025年2月3日付)に掲載された。
References: Microplastics Could Accumulate in Our Brains More Than in Kidneys And Livers : ScienceAlert[https://www.sciencealert.com/microplastics-could-accumulate-in-our-brains-more-than-in-kidneys-and-livers] / Levels of microplastics in human brains may be rapidly rising, study suggests | Plastics | The Guardian[https://www.theguardian.com/environment/2025/feb/03/levels-of-microplastics-in-human-brains-may-be-rapidly-rising-study-suggests]