量子力学の謎に挑む、光を37次元で測定し、常識を超えた世界を証明
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 ポストを開けるまで、中に手紙があるかどうかは決まっていない」そんな量子の不思議な世界を、物理学者たちが前代未聞の方法で証明した。

 量子の世界では、観測するまで事象が確定せず、複数の可能性が同時に存在することが知られている。

そんな不思議な現象が本当に起こるのか?

 中国科学技術大学の研究チームは、この「グリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー・パラドックス(GHZパラドックス)」と呼ばれる量子力学の理論を厳密に検証するため、光の状態を37の異なる次元で考慮して測定する実験を行った。

この研究は、量子の不思議な性質がどこまで常識を超えているのかを探るものだ。

局所実在論―「普通の世界」の当たり前のルール

 今あなたは自宅のポストに郵便物が入っているかどうか知りたいとしよう。知る方法は簡単。ただポストを覗き込めばいいだけの話だ。

 うれしいことに、中には友達からの誕生日カードが入っていた。あなたが確認したのはたったそれだけのことだが、そこからもろもろの流れを推測することができる。

 友達があなたの誕生日を覚えていてくれて、郵便局のポストに誕生日カードを投函し、配達の人が大きなトラブルなくあなたの家にまで届けてくれたのだ。

 こうしたわかりやすい世界の理解の仕方を「局所実在論」という。局所実在論の世界では、あなたがポストを覗こうが覗くまいが、そこに誕生日カードが届けられたのなら、誕生日カードはそこにある。

 この世界観の持ち主なら、友達の家からあなたの家に誕生日カードが届いた一連の出来事をすぐに想像できるだろう。そして科学の多くの分野では、局所実在論がこの世界の前提であり、それで十分事足りる。

 ところが量子物理学はそんな世界観をぶち壊してしまった。

この世界はあなたがすんなり理解できる仕組みでは成り立っていなかったのだ。

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量子の世界と局所実在論との矛盾

 量子の世界の特に奇妙なところは、それが局所実在論の常識に反することだ。

 局所実在論の世界では、ポストの中身はあなたの観察とはまったく関係がない。

 だが量子の世界では、あなたが自宅のポストを覗いてみるまでは、誕生日カードが入っているかどうか決まっていない。

 友達が誕生日カードを送り、それを配達の人が家のポストまで届けてくれたかどうかは、あなたが実際にポストを確かめたとき初めて決まる。

 さらに難解なことに、郵便局の配達人がカードをあなたの家に届けていないのに、自宅のポストにカードがあるような状況すらあり得る。

 こうした量子の世界と局所実在論との矛盾を示したのが「グリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー・パラドックス(GHZパラドックス)」である。

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光子の振る舞いを37次元で計測

 こうした量子の世界と局所実在論との矛盾を示したのが「グリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー・パラドックス(GHZパラドックス)」である。

 今回、中国科学技術大学チームは、光子を使った実験でGHZパラドックスを検証した。その実験では、誕生日カードの代わりに光子が、郵便局とポストの代わりに、光ファイバーシステムと干渉計測装置が使用された。

 しかし、この量子のふるまいを正しく解析するには、通常の3次元空間や時間の枠組みだけでは足りなかった。

 そこで研究チームは、光子の量子状態を記述するために、数学的に37次元の構造を導入し、解析する実験を設計した。

 ここでいう「37次元」とは、光子の量子状態を数学的に記述するための次元数であり、私たちが暮らす空間的な次元(上下・前後・左右)+時間とは異なる。

  量子のもつれや相関を正確に表すには、通常の3次元空間では不十分であり、より高次の数学的構造が必要だったのだ。

 この実験では、「3つの要素」として、光子の偏光や位相など異なる性質を測定し、それらの関係(量子もつれ)を詳しく分析した。

 観測された相関関係を逆算すると、わずか3つの要素だけでも、局所実在論の常識が通用しないことが示されたのだ。

この実験では、光子の量子状態が37次元の数学的な構造として記述されたが、それが物理的にどのような意味を持つのかはまだわかっていない。

未来の通信システムとして実用化が期待される量子テレポーテーションも、こうした高次元の量子状態のおかげで可能なのだろうか?

 37次元という設定は、単なる数学的な道具なのか、それとも物理的な意味を持つのか?

 もしこの数学的な高次元構造が物理的に意味を持つのなら、なぜ私たちはこの世界を「3次元 + 時間の1次元」としてしか認識できないのだろうか?

この研究結果は、より高速で堅牢な量子回路の開発に役立つ可能性があるというが、凡人には困惑しか残らない。この世界の真実は、ちっぽけな人間の脳の理解も想像も超えているのだと、ただただ戸惑うばかりだ。

 映画「マトリックス」ですら途中からこんがらがってしまう私には量子の世界は深すぎる。

 この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/sciadv.abd8080]』(2025年1月29日付)に掲載された。

References: Quantum Experiment Reveals Light Existing in Dozens of Dimensions : ScienceAlert[https://www.sciencealert.com/quantum-experiment-reveals-light-exists-in-dozens-of-dimensions]

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