
イスラエルの分子農業企業が、乳搾りができるジャガイモを開発している。正確には、乳製品に含まれるタンパク質の一種「カゼイン」を含んだジャガイモだ。
AIによる遺伝子解析で開発されたこの技術が実用化されれば、牛を必要としないチーズやヨーグルトが作れる可能性がある。
これは、酪農から排出される温室効果ガスを減らしつつ、これまでと同じ美味しさの乳製品を食卓に提供するための秘策だ。
近い将来、牛乳やチーズと言ったら、ジャガイモ乳製品を意味するようになるかもしれない。
乳製品の代替が必要な理由
動物の乳は大昔から人類にとって大切な食糧だった。栄養価が高く、チーズやバターなどに加工すれば、保存食としても利用できる。
その歴史は古く、動物の家畜化とともはじまったと考えられている。例えば、日本の食卓でもお馴染みの牛乳は、6000年前の現在のイギリスにあたる地域で人々に飲まれていたことを示す証拠が見つかっている。
そんな大切な食材である牛乳だが、まったく問題がないわけでもない。というのも、酪農からは大量の温室効果ガスが排出されるからだ。その排出量は世界全体の4%を占めるという。
そこでイスラエルの分子農業企業「Finally Foods(ファイナリー・フーズ)[https://www.finally-foods.com/]」は、その解決策として奇抜な方法を考案した。ジャガイモから牛乳を作ろうというのだ。
ジャガイモから牛乳の主要タンパク質「カゼイン」を作る
正確には、ジャガイモから牛乳の主要なタンパク質である「カゼイン」を作るのだ。
これによって、従来の酪農による牛乳よりもずっと環境に優しい代替乳製品を生産できるようになる。
カゼインは牛乳のタンパク質の約80%を占めるタンパク質で、消化に良く、必須アミノ酸のバランスもいい、優れた栄養素だ。
チーズやヨーグルトなどにも豊富に含まれており、特にチーズの場合、びろーんと伸びるあの独特の食感はカゼインによるものだ。
牛乳のタンパク質をイースト菌などによる発酵で作る方法も研究されている。
だが、ファイナリー・フーズ社のジャガイモベースのカゼインは、ずっとよりシンプルかつ安価に大量生産することができる。
現在の酪農によるものより環境に優しい牛乳やチーズを、お手頃価格で作れるということだ。
なぜジャガイモだったのか?
カゼインを作り出すジャガイモは、ごく普通のジャガイモと同じように栽培され、収穫される。カゼインはそれから抽出され、乳製品に利用される。
同じことをするのに必ずしもジャガイモである必要はないようだが、ジャガイモはさまざまな気候でもよく育ち、たくさん収穫できる。
またタンパク質の抽出も大豆などより楽に行える。そのため、カゼイン作物としてぴったりだったのだ。
なおファイナリー・フーズ社にはもう1つ重要な技術がある。それは1つのジャガイモでカゼイン全種を作る技術だ。
一口にカゼインと言っても、アルファ1・アルファ2・ベータ・カッパーの4種類がある。
だがカゼイン・ジャガイモは、それらすべてを一度に作ってくれるのだ。
これらのカゼインは、例えばチーズ作りでは、固まりやすさ・溶けやすさ・伸びやすさなどに影響するために、乳製品の品質という点では大切なものだ。
だから、それらすべてを含むジャガイモ・カゼインは、これまで通りの乳製品とまったく同じものを作れる。
ファイナリー・フーズ社のCEO、ダフナ・ガバイ氏は、「市場にカゼインとその他の植物由来タンパク質を混ぜて供給するつもりはありません」と語る[https://agfundernews.com/casein-from-potatoes-molecular-farming-startup-finally-foods-emerges-from-stealth]。
また同氏は、ジャガイモ・カゼインは遺伝子組み換え製品ではないとも述べている。
DNAなしで、クリーンで純粋なカゼイン・タンパク質を生産するシステムを開発しています。ですから最終的にできる製品は、遺伝子組み換えではありません(ガバイ氏)
未来の乳製品はジャガイモから作られるかも
こうした合成乳製品はきわめて新しい分野だ。だが最近の報告[https://www.businesswire.com/news/home/20190917005441/en/New-Report-Major-Disruption-in-Food-and-Agriculture-in-Next-Decade]によると、米国では合成発酵技術が2035年までに100万人の雇用を生み出す可能性があり、乳製品もその重要な領域になると予測されるという。
ジャガイモ・カゼインは環境に優しく、安価で、大量生産に向いているという特徴がある。
一方で、遺伝子組み換え作物に対しては厳しい規制が課されることが多い。またもう1つの合成発酵技術に使われる微生物ならば数日で済むのに対し、ジャガイモの栽培には数週間から数ヶ月かかるという弱点もある。
だが一番の難関は、不自然な作物から作られる乳製品を消費者に受け入れてもらえるかだろう。
ファイナリー・フーズ社は現時点で消費者に直接販売するのではなく、まずは企業への販売を念頭に置いている。だが、こうした企業もそれを消費者に受け入れてもらわねばならないことに変わりはない。
さて、未来の食卓はどうなっているのだろうか?
ファイナリー・フーズ社による本物の畑での栽培は、まずイスラエル南部で行われるという。これに成功し次第、イスラエルと米国での承認を求める予定であるそうだ。
References: Molecular farming startup Finally Foods emerges from stealth mode[https://agfundernews.com/casein-from-potatoes-molecular-farming-startup-finally-foods-emerges-from-stealth] / How to milk a potato? Start-up grows dairy protein inside potatoes[https://www.zmescience.com/science/news-science/protein-dairy-inside-potato/]