7世紀の宗教施設遺跡で「悪魔の貨幣」を発見
Jan-Willem de Kort, Mario van IJzendoorn and Archeocare in de Kort et al. 2024

7世紀の宗教施設遺跡で「悪魔の貨幣」を発見の画像はこちら >>

 オランダ東部の村ヘツィンゲンで2019年に金や銀の古いコインや装飾品が発見された。

 考古学者らが調査を進めたところ、この場所は約1300年前、当時の地元の人々が特別な宗教儀式が行っていたことがわかった。

 彼らは神々への供物として、後にキリスト教の宣教師たちに「悪魔の貨幣」と呼ばれる金貨や銀貨を捧げていたのだ。

 その後キリスト教が広まるにつれ、この場所は突如放棄された。

 ここの住民は、キリスト教という新たな信仰に改宗した最初の人たちだったのかもしれない。

ヘツィンゲン遺跡で発見された金貨や銀貨

 中世初期のゲルマン・北欧世界の一部では、キリスト教が初めて伝来した7~8世紀以前の宗教信仰体系について詳しく知ることができる。

 だが、オランダなどの地域ではその移り変わりはよくわかっていなかった。

 2019年、オランダ東部の野原で金属探知機によって古代のコイン(硬貨)がいくつも発見された。

 その後2年間にわたって、オランダ文化遺産庁の考古学者ヤン・ウィレム・デ・コート氏の研究チームが現場周辺の発掘調査を行った。

 この場所は近くの村落の名をとってヘツィンゲン遺跡と名づけられた。

 発掘の結果、木の柱の穴の跡が17個もある大きな円形の遺構が出土し、当時にしては珍しい形の建物だったのか、またはその頃あったとされる大富豪の邸宅「ヘレンホフ」の可能性があるとされた。

 神々に捧げたと思われるさまざまな遺物も見つかり、それらが置かれていた場所に基づいて、遺跡内に3つの特別な場所が存在することがわかった。

 遺物は金銀の宝飾品、東ローマ帝国で使用されていた小さな金貨、トレミシスなど貴重なものだった。また遺構の柱の穴の配置が太陽の昇る方向を意識したもので、春分と秋分の日にきっちり合うことも判明した。

[画像を見る]

ヘツィンゲン遺跡で行われていた宗教的儀式

 つまり、ヘツィンゲンは季節ごとの農業儀式や宗教祭祀の場として機能していた可能性が高いという。

 「4列の柱は正確に東西に並んでいます。

標高が高いため、春分の日には太陽は正確に真東から昇るのです」デ・コート氏は説明する。

 地元の神々とは誰だったのか、その正体ははっきりしていないが、中世の宣教師の文書にそのヒントが記されていた。

 いずれにしても、新たに伝わってきたキリスト教はこうした地元の神々を認めなかった。

ヘツィンゲンで崇拝されていたらしい神々は、9世紀の写本に出てくるザクセン人のキリスト教洗礼の誓約から知ることができます

ここには、改宗する者が放棄しなくてはならない神々、ヴォーダン(UUôden)、ドナー(Thunær)、サクスノート(Saxnōte)について書かれています(デ・コート氏)

[画像を見る]

キリスト教宣教師たちの怒りをかった「悪魔の貨幣」

 キリスト教宣教師たちは金銀の供物にとくに憤慨し、このような贅沢品が神々への供物であることはありえないとして、これらを「悪魔の貨幣」(ディオボルゲルダイ)と呼んだ。

 悪魔の金はマモンともいい、キリスト教にとって不正な金、強欲を意味し、偽りの神への信仰だと切り捨てた。

この宗教儀式の場は、地元の有力者たちが貴重品を誇示しながら自分の財力・権力を見せつけるために使ったのではないかと推測することもできます(デ・コート氏)

[画像を見る]

キリスト教への改宗者が増え、遺跡が放棄された可能性

 これら有力者たちがヘツィンゲン遺跡を放棄したのは、7世紀後半から8世紀前半ではないかという。

 このタイミングは興味深い。というのは最初のキリスト教宣教師プレヘルムスとレブイヌスが西暦760年頃にこの地域を旅していて、最初のキリスト教会が建てられたのも同時期なのだという。

 ただ、オランダ全土にキリスト教が普及したのは少なくとも1世紀は後のことだ。

 つまりヘツィンゲンの人たちは「悪魔の貨幣」信仰を捨ててキリスト教を選んだ最初の人たちだったのではないか。

 もしかしたら、新たにやってきたキリスト教の宣教師たちによってこの場所は悪魔だと冒涜され、うち捨てられ、価値あるものはほとんどが持ち去られたのかもしれない。ほかにも泥棒に略奪されて廃れたという説もある。

 デ・コート氏は、この場所が放棄された理由がなんであれ、たとえ異教信仰の現場だったとしても敬意と注意を払って取り扱うことが重要だという。

 もともとそこに住んでいた人たちが信じていた信仰を異端だと決めつけて否定し、その人たちを駆逐または無理やり改宗させるという蛮行は世界中で行われてきた。

 人がなにを信じ、心の拠り所にするかは自由だろう。宗教のために戦争をする世界など、なんのための宗教かと思わざるを得ない。

 この研究は『Medieval Archaeology[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00766097.2024.2419198]』誌(2024年12月24日付)に公開された。

References: Tandfonline[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00766097.2024.2419198] / Archaeologists uncover gold and silver ritual offerings at a 7th century cult site[https://phys.org/news/2025-02-archaeologists-uncover-gold-silver-ritual.html] / 7th-Century Germanic Pagans Used "Devil’s Money" in Occult Rituals[https://www.zmescience.com/science/archaeology/7th-century-germanic-pagans-used-devils-money-in-occult-rituals/]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

編集部おすすめ