進化は、生物が環境に適応するために起こるという、ダーウィンの進化論が提唱されて以来、生物は生き残りをかけ、様々な進化を遂げてきた。この地球には多種多様な生き物たちが存在するが、それこそが進化の賜物である。
だが、ミシガン大学の研究によると、「進化そのものが進化している」のだという。
シミュレーションを利用した実験では、環境が変化することで生物の進化の可能性が大幅にアップすることが確認されている。
あっという間に抗生物質やワクチンへの耐性を身につける細菌やウイルスなどは驚くほど環境に適応するのが上手い。その秘密は、この「進化の進化」にあるのかもしれないという。
1つの共通先祖から枝分かれしたとは思えないほど多様な進化
進化は不思議だ。進化論的に考えれば、今存在する様々な生物たちは、たった1つの共通祖先から始まり、それぞれの環境にある問題を克服し、うまく適応してきた結果、多様化した。
だが、そう言われて素直に納得できるだろうか? この地球に存在する多種多様な生き物が、たった1つの共通祖先から枝分かれしたものであるとは、にわかには信じられないだろう。
それは科学者も同じだ。ミシガン大学の進化生物学者ルイス・ザマン氏は、ニュースリリース[https://news.umich.edu/evolution-evolution-evolution-how-evolution-got-so-good-at-evolving/]で次のように述べている。
「生命は本当に問題解決が得意です。周りを見渡せば、生命の多様さに驚くばかりで、これらすべてが共通の祖先から派生しているというのは不思議に思えます」
進化自体が進化している可能性
なぜ進化は、これほどまでに創造的なのか? ザマン氏は、その秘密は「進化それ自体が進化する」からではないかと考えている。
生物が進化する力のことを「進化可能性(evolvability)」という。
生物の進化は、遺伝的な突然変異が蓄積され、それによってある環境に対する適応度が高まるために起きる。
つまり、ある環境を生きるうえで便利な突然変異がほとんど起きなければ、簡単には進化できないということだ。
それとは逆に、適応度を高めるような突然変異が起きやすければ、それだけ進化も速まる。
ザマン氏が言う進化の進化とは、この進化可能性が高くなることだ。
だが、それが本当に起こるのかは明らかではない。なぜなら、進化の可能性が進化するということは、将来的に適応できる幅が広がることを意味するからだ。
たとえば生物の進化ならば、ある突然変異が”今”の環境に有利だったときに起きる。だが進化可能性の進化とは、ある生物の”未来”の適応度の可能性を高めるがごとき現象なのだ。
ザマン氏によるなら、それは重要なことで、確かに起きているのだという。だが、なぜ、そしていつ起きるのかは定かではない。
そこで同氏は、数理モデルによるシミュレーションを駆使して、その謎に迫ってみることにした。
進化のプロセスをシミュレーション
その数理モデルは、3種の有益な論理関数と3種の有害な論理関数が組み込まれたものだ。
論理関数というと難しく聞こえるが、環境によって有益にも有害にもなる”赤い実”と”青い実”に例えることができる。
たとえばある環境において、赤い実はそこで暮らす生物にとって栄養たっぷりだが、青い実は毒性を発揮する。ところが、また別の環境では、赤い実が有毒となり、青い実がご馳走になる。
そこで暮らす生き物は、片方の食べ物(たとえば赤い実)に特化しており、もう1つの食べ物(青い実)は食べられない。だから片方の環境では繁栄できても、もう片方の環境ではうまく生きられない。
この設定のもと、いくつかのシナリオを試し、進化可能性の変化を観察してみる。
シナリオの1つでは、環境が一定に保たれていた。この場合、生き物は嫌いな実を食べようとはしなかった。
赤い実を食べるグループは赤い実を食べ続け、青い実を食べるグループは青い実を食べ続けた。
別のシナリオでは、生き物に赤い実が食べられる環境と青い実を食べられる環境を行き来させてみた。
すると生き物はどちらの環境にもうまく適応できるようになったのだ。
しかもこのとき、両方の実を食べることを可能にする突然変異が、1000倍にも増加していたのである。
進化は「最適化」される
このシミュレーションで起きたことは、いわばプログラムの進化のようなもので、プログラム自体が新たな突然変異の近傍へとシフトしていた。
ザマン氏によれば、進化したプログラムは、コンピュータコードで構成された複数の遺伝子からなる経路のようなものである。そして環境が変動するたびに、この経路が新たな実を食べられるよう再構成される。
その結果として、赤い実か青い実のどちらかしか食べられなかった生き物が、両方の環境で生きられるようになったのだ。
また別のシナリオで、環境が変化する頻度を変えてみると、進化可能性が高まるためには、環境がある程度ゆっくりと変化する必要があることがわかったという。
たとえば1世代のうちに環境が変化しても進化可能性は進化しないが、100世代かけての変化ならば進化可能性が高まる。
そして一度定着した進化可能性は、その後の進化で低下することはない。つまり進化が進化して、より優れた進化になれば、それはその後ずっと続くのである。
この研究は『PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2413930121]』(2024年12月31日付)に掲載された。
References: Evolution, evolution, evolution: How evolution got so good at evolving | University of Michigan News[https://news.umich.edu/evolution-evolution-evolution-how-evolution-got-so-good-at-evolving/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。











