
オーストラリアの企業が世界初の生体コンピューター「CL1」を発表した。
CL1は、培養された人間の脳神経細胞が生きたまま搭載されており、シリコンハードウェアを融合させた革新的なバイオコンピューターだ。
従来のシリコンベースのAIチップよりもはるかに高い学習能力と適応力を持つシステムは、画期的な成果を生むだろうと期待されている。
CL1は数ヶ月以内にリリースされる見込みで、さらに年内にはクラウドベースでの提供も開始されるとのことだ。
人間の脳細胞を活用したCL1の仕組みと特徴
CL1は「合成生物知能(Synthetic Biological Intelligence、SBI)」というシステムを採用している。
これは、血液サンプルの誘導多能性幹細胞(iPS細胞)から培養された脳神経細胞をシリコンチップ上に配置しすることでネットワークを形成し、自律的に学習・進化していく仕組みを持つ。
最大の特徴は、シリコンベースのコンピューターとは異なり、エネルギー消費が少なく、より持続可能で効率的な情報処理が可能な点だ。
このシステムでは、培養された脳細胞がシリコンチップ上で電気的な刺激を受けながら学習し、新しい情報を素早く処理する。
「CL1」を開発したCortical Labs社の創設者兼CEOのホン・ウェン・チョン博士は、この神経細胞コンピューター開発の突破口となったのは、2022年の研究の成功だったと語っている。
その研究で利用されたCL1の前身となる生体コンピューター「DishBrain」は、「ポン」というエアホッケーのようなテレビゲームをほんの5分間だけ学習し、見事プレイすることに成功した。
これは、電気生理学的な刺激と記録を用いて、生きた神経細胞をゲームのシミュレーション世界に適応させられることを証明した画期的な出来事である。
だが、どれほど画期的な発明も実験室に仕舞い込んでしまっては意味がない。
今回発表されたCL1は、この技術を普及させ、研究者が手軽に利用できるようにするという目的のために開発されたものだ。
生命維持装置内蔵ケースに収納された生体コンピュータ
CL1の長方形のケース内には、合成生物インテリジェンスの名に相応しく生命維持装置が組み込まれている。それは培養された本物の神経細胞(ニューロン)を生かすためのものだ。
神経細胞は59基の電極アレイに設置され、脳のような神経ネットワークを形成。
Cortical Labs社の最高科学責任者ブレット・ケーガン氏によると、CL1はDishBrainから大幅に進歩しており、技術的にはまったくの別物であるという。
たとえば、DishBrainは電荷をうまくバランスさせることができず、長時間使用すると神経細胞に大きな負担を与えるという問題があった。だが、CL1ではこの点が大きく改善されている。
お値段520万円、年内にはクラウドでの利用も可能に
CL1、1台の価格は、35,000ドル程度(約520万円)になる見込みだ。
だが現在Cortical Labsl社は、30台のCL1を組み込んだ神経細胞ネットワークサーバーラックを構築し、2025年内を目処にこれをクラウドベースで世界各地から利用できるよう準備を進めている。
「かなり手頃な価格を目指しており、長期的にはさらに安価にする予定です」とケーガン氏は説明する。
CL1はいわば進化する有機コンピューターで、大規模言語モデルの訓練に用いられるシリコンベースのAIチップを凌駕する高速学習と柔軟性があるとされている。
その力を十分に活用すれば、今後数々の画期的な成果を生むことだろう。
倫理的な問題と未来の展望
ただし、生体コンピューターの進化に伴い、倫理的な問題も浮上している。特に「意識」や「自我」を持つ可能性については慎重な議論が求められる。
Cortical Labs社は、「この技術の適切な利用のために、各国の規制機関と連携して進めていく」としており、倫理的な観点からのガイドラインを重視している。
CL1は、従来のAIとは異なり、生物学的な脳の仕組みを活用することで、より自然で有機的な知能を生み出す可能性がある。
そうした研究は、てんかんやアルツハイマー病のような脳に関連する病気の治療法にもつながるだろうとのことだ。
この革新的な技術が、今後どのように社会に影響を与えていくのか、注目が集まっている。
References: World's first "Synthetic Biological Intelligence" runs on living human cells[https://newatlas.com/brain/cortical-bioengineered-intelligence/] / Corticallabs[https://corticallabs.com/cl1.html]
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。