古代シルクロードに生きたソグド族の謎が、DNA研究で明らかに
ソグド族の商人を描いた中世の絵画 <a href="https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SogdianMerchants.jpg" target="_blank">public domain/wikimedia</a>

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中国の遺伝子研究チームが、古代の中央アジア、ソグディアナ地方で商人や移住者として活発に活動していた謎の民族、ソグド族のDNA解析に成功した。

ソグド族についてはこれまでほとんど知られていなかったが、今回、彼らの文化に基づき詳細な遺伝子プロファイルを解析した結果、彼らソグドが、紀元前130年から紀元1453年まで国際交易ルートだったシルクロードで、西のヨーロッパ人と東のアジア人を結びつける仲介者という重要な役割を担っていたことが明確になった。

ソグディアナで暮らしていた謎の民族「ソグド族」

 中央アジアのアムダリア川とシルダリア川の中間地域は、かつてソグディアナと呼ばれていた。現在のウズベキスタンのサマルカンド州とブハラ州、タジキスタンのソグド州、キルギスタンにあたる。

 ここにはイランとつながりの深い農耕民族ソグド人で形成される「ゾクト族」が住んでいた。

 彼らは、アケメネス朝時代にペルシア帝国に併合され、のちにマケドニアのアレクサンダー大王に征服されたりと他民族の支配にさらされる時代を経てもなお、独自の文化を維持していた。

 紀元500年頃には中央アジア、極東での交易、工芸品や娯楽などで知られるようになった。

 とくに中国の唐時代(618~907年)には繁栄していたシルクロード沿いに多くの拠点を置いた。

 その集落の多くは中国にあり、中国側も交易を促進してくれるソグド人の役割をよく理解していたようだ。

 ソグド人は西アジア人であるとみなされているが、シルクロード沿いで関わったと思われる他文化との交流記録はほとんど残っておらず、これまで、詳しいことはわからない謎の民族だとされていた。

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男女の骨のDNAから解明されたソグド人の起源

 中国北西部の固原(こげん)という場所で発掘された唐王朝時代の墓から、ソグド人男女2体の骨が見つかった。研究者らはこの骨からDNAを抽出し、それぞれの起源を詳しく分析した。

 抽出されたDNAから、このふたりは一緒に(時期は同じではない可能性があり)
埋葬された男女だとわかった。

 男性(SUTE1)のほうは中国の祖先と中央アジアの祖先が混じったDNAを持っており、そのDNAから、この男性のルーツが紀元前2000年前後の青銅器時代にソグディアナ地域で栄えた文化を示すバクトリア・マルギアナ考古学複合体(BMAC)にさかのぼることがわかった。つまりソグド人だったと考えられる。

 さらにこの男性の祖先は、中期青銅器時代(紀元前2000~1500年)に中央アジア南部にいたロシアとモンゴルのテュルク系民族[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%AB%E3%82%AF%E7%B3%BB%E6%B0%91%E6%97%8F]の集団とも関連があった。

  一方、女性の骨(SUTE2)から検出されたのは黄河地域から来た祖先のDNAのみで、彼女が新石器時代から中国地域にずっと住んでいた人々の子孫であることがわかった。

 このふたりは持っていた遺伝子が違うにも関わらず、2014年に初めて発掘された家族の墓らしき場所に一緒に埋葬されていた。副葬品には硬貨、小像、ガラス玉、フレスコ画などソグド文化の遺物が納められていた。

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国境を越えた「婚姻外交」

 墓の出土品とその建築様式から、遠い昔にシルクロード近くの古代中国に定住していたソグド人家族の墓であることは間違いないと思われる。

 とするとこの男女は結婚していたに違いない。

「この研究結果は、当初は交易が目的で中国にやってきたソグド人が定住し、地元中国の人と結婚し、シルクロードでの商業の仲介者として重要な役割を果たすようになったことを示している」と論文は述べている。

 紀元前1000年末期にソグド人がヘレニズム[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0]世界と秦・漢王朝とのつながりを育む上で非常に重要な存在だったことを強く示していて、シルクロード商人として有名になる前の初期のソグド人のアイデンティティがはっきりわかるという。

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ソグド人が支えた東西文化交流

 古代中国の史料『魏書』によると、多くのソグド人が魏晋から隋唐時代(220年~900年頃)にかけて中国に移住してきたと記録されている。彼らは交易を強化するため、中国人との結婚を積極的に行っていたのだ。

 こうした歴史の記録からは、ソグド人が婚姻によって地元社会に溶け込み、東西4000kmにおよぶ交易路を約1600年もの長期にわたって繁栄させる要因となったことがわかる。

 こうしたソグド人の活動がなければ、世界史における東西の文化的・経済的交流は、これほどまでに豊かな広がりを持たなかったかもしれない。

 この研究は『Journal of Archaeological Science[https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2352409X24005856]』誌(2025年2月)に掲載された。

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