
人工知能(AI)は、様々な分野で人間を凌駕しつつあり、万能のようなイメージがあるが、意外な欠点をもっていた。「時間を正しく読むことができない」のだ。
英エディンバラ大学の研究チームが最先端のAIで検証したところ、アナログ時計の針の位置を正確に読み取ることや、カレンダーの日付を計算をするのが苦手で、4回に1回しか正確な答えを出せなかったという。
時間に関わるAIの活用を広げるには、まずこの弱点を克服しなければならないと研究チームは提言している。
最新のAIでもアナログ時計の針を正確に読めない
今回その性能が試されたのは、テキスト・画像・音声など、さまざまなデータを同時に処理できるとされる「マルチモーダル大規模言語モデル(MLLM)」だ。
この最先端のAIモデルに、アナログ時計やカレンダーの画像を見せて、いくつか質問してみる。
たとえば、アナログ時計の画像を見せて、何時を指しているか答えさせた。
小学生でも答えられる質問だが(最近の小学生はデジタル時計に慣れ過ぎて読めない子も増えているそうだ)、意外にもAIは4回に1回程度しか正解できなかったのだ。
このクイズでは、ローマ数字のものや、秒針があるものやないもの、文字盤の色が異なるものなど、いろいろな時計のデザインが試されている。
その結果わかったのは、AIがローマ数字の時計や、針に装飾的なデザインが施された時計を特に苦手としていることだ。
また秒針があるかないかで、AIの正解率に大きな差はなかった。
このことは、時計の針を読めないという弱点が、針の検出や角度の解釈に関連する根深い問題に起因していることをうかがわせるという。
ちなみに私も大規模言語モデル(LLM)のチャットGPT(4.5)にこの時計が何時何分を指しているのかを聞いてみたところ、しっかり間違えていた。
カレンダーの日付の計算もできない
さらにカレンダーを使ったクイズでも、AIの弱点が炙り出されている。
祝日を当てさせたり、過去・未来の日付を計算させるといったクイズを行ったところ、もっとも優れたAIモデルですら、5回に1回は間違えたのだ。
人間にとっては基本的なカレンダー計算でも、最先端のAIですら難題となることがわかった。
なぜAIは「時間」の理解が苦手なのか?
高度な分析能力があるはずの最先端AIが、なぜこのような簡単な時間の問題に苦戦するのだろう?
研究チームによると、アナログ時計やカレンダーを理解するには、空間認識・文脈の理解・数字の組み合わせを適切に処理せねばならない。
文字の読み取りだけでなく、針の位置関係や日付の規則を理解することが求められるため、今のAIには難しい課題なのだという。
エディンバラ大学のロヒット・サクセナ氏は、「ほとんどの人は、小さな頃から時計を読み、カレンダーを使うことができます。今回の発見は、そのような人間にとって基礎的なスキルであっても、AIはそれに苦労するという大きなギャップを浮き彫りにしています」と語る。
AIは苦手分野を克服できるのか?
スケジュール支援・自律型ロボット・視覚障害者向けのアシスタントツールなど、時間をきちんと把握せねばならないシステムはいくつもある。
今回の研究が示しているのは、こうしたシステムにAIを搭載するには、現実世界の時計やカレンダーを読めないという苦手を克服せねばならないということだ。
今日のAI開発では、推論など、きわめて高度な機能の追求が推し進められている。だが小学生にもできることができないとは、じつに皮肉なことだと研究チームは伝えている。
この研究は、2025年4月28日にシンガポールで開催される『ICLR 2025(表現学習国際学会)』のワークショップで発表される予定だ。
References: https://www.eurekalert.org/news-releases/1076820
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。