
かつての恐竜が持っていた「原始的な羽毛」が、ニワトリの胚(はい)で蘇った。
スイスの研究チームが、ゲームキャラクターにちなんだ、「ソニック・ヘッジホッグ遺伝子」を操作したところ、胚が成長するにつれ、恐竜を思わせる、ふさふさ感のない、原始的な羽毛が生えてきたのだ。
この成果は、鳥の羽毛がどのようにして今の形に進化したのか、重要なヒントを与えてくれるという。では詳しく見ていこう。
遺伝子を操作し、ニワトリの羽毛の進化を探る
スイス・ジュネーブ大学の遺伝学者、ミシェル・ミリンコビッチ教授とロリー・クーパー博士は、ニワトリの羽毛進化の秘密に迫る実験を行った。
彼らが注目したのは、人気ゲームのキャラクターに由来する「ソニック・ヘッジホッグ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B0]」遺伝子である。
「ソニック・ヘッジホッグ(SHH)遺伝子」は、胚が発達し形態形成する時に重要な役割を果たすタンパク質の情報がコードされた遺伝子だ。
この遺伝子に、キャラクター名が与えられたのは、1990年代に米国の研究者らがショウジョウバエの遺伝子研究中、変異を起こした胚がハリネズミ(ヘッジホッグ)のようにトゲだらけになったことに由来する。
その後、脊椎動物にも同様の遺伝子が発見され、研究者の息子が遊んでいたゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B0]」の青くて素早いハリネズミを擬人化したキャラクターにちなみ、「ソニック・ヘッジホッグ」の名がつけられた。
ジュネーヴ大学の遺伝学者ミシェル・ミリンコヴィッチ教授はかつて、この遺伝子を活性化させることで、通常はウロコにおおわれている鳥の足に羽毛を生やすことに成功している。
しかし今回は逆に、遺伝子の働きを止めた場合にどんな変化が起こるかを確かめようとしたのだ。
恐竜を思わせる原始的な羽毛が出現
実験では、ニワトリの胚にSHH遺伝子経路を抑制する薬を投与し、その後の経過を観察した。すると胚発生から9日目、驚くべき変化が現れたのだ。
通常の羽毛は複雑に枝分かれした構造をしているが、その胚から生えてきたのは、単純な管のようなものだった。
鳥の直接の祖先は恐竜だとされているが、この「原始的な羽毛」は、約2億5000万年前の三畳紀初期の恐竜が持っていたとされるもので、現在の鳥類の羽毛へと進化する前段階にあるものだ。
今回の結果から、この遺伝子が羽毛の進化に深く関係していることが裏付けられた。
今回の実験が意味するところは、SHH遺伝子が羽毛の進化において大切な役割を果たしたということだ。
ただし原始的羽毛は定着せず、再び正常な羽毛に戻る
しかし、恐竜のような原始的羽毛が現れたのは一時的な出来事にすぎなかった。
胚が成長して2週間を過ぎる頃には、羽毛は徐々に通常の形に戻り始めた。実験により生まれたヒナたちは、最初は羽毛のない部分があったものの、生後7週間ほどすると、再び正常な羽毛が生え揃ったという。
ミリンコビッチ教授は、「脚のウロコは一時的な刺激で永久に羽毛に変えられるが、本来の羽毛の成長を完全に止めるのは非常に難しいことが分かった」と述べている。
つまり、恐竜と鳥の中間的な羽毛をもつ生き物が現代に定着する可能性は、非常に低いことがわかったのだ。
羽毛進化を支える強力な遺伝子ネットワーク
今回の研究で明らかになったのは、鳥の羽毛が遺伝子や環境の影響を受けても容易には変化しないほど強固な仕組みを持っているということだ。
羽毛の形成に関わる遺伝子は複雑に絡み合っており、少しくらいの遺伝子操作や環境の変化では簡単に崩れないよう進化してきたのである。
ミリンコビッチ教授は今後の研究課題として、「原始的な羽毛という新しい形態が、どのような遺伝子間の相互作用によって進化したのかを解明することが重要だ」と述べている。
この研究は『PLOS Biology[https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003061]』(2025年3月20日付)に掲載された。
References: From dinosaurs to birds: the origins of feath | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1077117]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。