
どうやったらもっと魚が釣れるのだろう?魚の行動を理解すればもっと釣れるんじゃないか?そのための様々な研究が昔から行われてきた。
20世紀初頭、特に1910年代から1920年代にかけて、科学者と釣り人が協力して「魚の目には人間がどう映るのか」を解明しようと試みた。
この写真がどれほど釣りに役立ったかどうかはわからないし、本当に魚目線で人間がこのように見えていたかどうかもわからないが、記録された写真は興味深いものがある。
魚に釣り人はどう見える?水中撮影実験
この時代の研究者たちは、水中から見た世界を撮影するために、いくつもの工夫をした。たとえば、水槽を使った実験や、川の一部を区切って撮影する方法、ガラスで覆った潜望鏡のような装置を水に沈める方法などがあった。
しかし、光の屈折や水の歪みの影響で、写真を撮るのは簡単ではなかった。
それでも彼らは挑戦を続け、独特な水中写真を生み出した。こうした写真は、魚の視点を知ることで、釣りの技術を向上に役立つと信じられていた。
イギリス、フランシス・ワード氏の研究
イギリスの生物学者であり釣り人でもあったフランシス・ワード氏は、1919年に『Animal Life Under Water[http://Animal Life Under Water]』という本を出版した。この本の中で彼は、水中から見た水面の様子について説明している。
想像してみてほしい。あなたが川の底にいて、水面を見上げるとする。すると、水面は広大な鏡のように見え、川底の風景が反射して映し出されているだろう。
だが、その鏡の中央には『窓』と呼べる円い部分があり、そこからは空や陸の風景がはっきりと見えるのだ(ワード氏)
「窓」が見えるのは、水と空気の境目で光が屈折するためであり、魚はこの部分を通して外の世界を見ているのだとワード氏は説明する。
彼は、魚の視点を理解しなければ、その生態を正しく知ることはできないと考えていた。
だが結果的には、水面に浮かぶ本物や偽物のハエ(釣り用のフライ)、釣り糸、さらにはカメラマン自身が映り込んだ不思議な写真が生まれた。
エドワード・リングウッド・ヒュイット氏の試み
アメリカの発明家であり釣り人でもあったエドワード・リングウッド・ヒュイット氏(1866年–1957年)は、1922年に『Secrets of the Salmon(サケの秘密)』という本を出版した。彼は、動く映像を使って、人工のフライ(毛針)や昆虫が水面でどのように見えるのかを撮影した。
彼の写真には、水のゆらぎや光の屈折によって生じるさまざまな歪みが写っていた。そして彼は、「魚はラファエロの天使からキュビズムの芸術、さらには巨大な飛行船ヒンデンブルクまで、さまざまなものを次々と見ることになる。だからこそ、魚が私を見分けられないのも当然だ」とユーモラスに語っている。
魚視点の写真は釣りに役立っていた
ヒュイット氏は、魚の視点を理解するためには、自分で実験を繰り返すことが大切だと考えていた。
彼は、他の釣り人の研究や写真だけを信じるのではなく、自分で試して確かめることを重視していた。彼の著書の中で、「私は科学的な事実をただ信じるのではなく、自分の手で確かめたい」と述べている。
また、彼は魚の視点から見たフライ(毛針)の写真を分析し、実際の昆虫に近い新しいフライを作るヒントを得た。
さらに、天候や水の状態に応じた釣りの方法を考えるうえでも、水中写真は重要な手がかりとなった。
ワード氏もまた、水中写真を使って、釣り人がどのように魚に見えるのかを研究した。彼は緑色のツイードスーツや白いダスターコート(防塵用の上着)を着た自分の姿を水中から撮影し、どの服が魚に気づかれにくいかを調べた。
こうした研究は、魚を驚かせないためのカモフラージュ(擬装)の技術として、釣り人たちに活用された。
真の釣り人は魚の気持ちが理解できる人
こうした研究を進めるうちに、釣り人たちは単に魚を人間の視点で見るのではなく、魚の考え方に寄り添うようになった。
ヒュイット氏は、「サケを理解するには、サケの心理を研究し、彼らの生活や習性を知る必要がある」と述べている。
彼が理想の釣り人として挙げたのは、作家ラドヤード・キップリングの小説に登場するキャプテンで、「タラ(魚)のように考えることができる男」だった。
つまり、釣り人は魚の気持ちを理解し、魚になりきることが求められたのだ。実際に川の中に入ることはできなくても、水中写真を使うことで、釣り人は魚の目線に近づくことができた。
実験を超えた前衛的で芸術的な写真に
これらの写真は、科学的な目的で撮影されたものだが、その奇妙な視覚効果が生み出すアート的な魅力もある。
水面のゆがみを通して映る人の顔は独特の表情を見せ、まるでシュルレアリスム(超現実主義)の絵画のようだ。
これらの写真は単なる研究資料ではなく、時代を超えた前衛的な美しさを持つ作品でもある。
とはいえ魚たちの目に人間が本当にこのように見えているどうかはちょっとよくわからない。