この子のおかげで今日を生きられる!飼い主の異変を察知し、助けるための行動をする犬
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 POTS(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome:体位性頻脈症候群)という難病を聞いたことがあるだろうか。突然前触れもなく襲ってくる症状。

すぐに対応しないとそのまま意識を失ってしまうこともある。

 そんなPOTSを抱えた女性が、オーストラリアンシェパードのサービスドッグ、ベイリーに見守られながら、一日一日を大切に生きている。

 サービスドッグは症状が発現する直前に女性の異常を察知し、休むよう促し、水と薬を渡して寄り添い、「傍にいるよ」と安心させるのだ。

発作を起こす前に察知して薬を渡すサービスドッグ

 まずは最初にこの動画を見てもらった方が良いと思う。そしてこれがいったいどういう状況なのか、ちょっと想像してみてほしい。

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 キッチンで家事をしている女性の元へ、愛犬のベイリーがやってきてじゃれついているように見える。遊んでほしいのかな?と思って見ていると……。

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 ベイリーは彼女の手を引いて床に座らせようとする。女性のほうも様子がおかしい。犬に促されるままに床に座り込んでしまう女性。

 動画の中の音声は、犬のセリフを代弁しているようだ。

ママ、何かがおかしいよ。脈がすごく早いし不規則だ。

ニオイでもわかる。家事はやめて、お願いだからここに座って。僕がそばにいるから。怖いのわかるよ、でも大丈夫、僕が助けるから。お薬を飲むのにお水を持ってきてあげるね

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 ベイリーは冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水を持って来て飼い主に渡す。その後冷蔵庫のドアをきちんと閉めると、何かを探しているようだ。

お薬はどこだろう、早く見つけなきゃ。ここかな? あ、あった! ごめんね、早く見つけられなくて

 ベイリーが探していたのは薬だった。飼い主に薬を渡すと、彼女の足の上に乗って、きちんと飲むのを見届ける。

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悪化してる。僕はここにいるから、横になって、呼吸をして。僕はどこにも行かないから。

ママは安全だからね。

 薬を飲み終わった飼い主を、今度は体重をかけて床に押し倒し寝かせるベイリー。安心させるようにピッタリと寄り添っている。

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POTSという難病を抱えた女性のパートナー

 この女性はアメリカのジョージア州に住むケイティ・グラハムさん(26)と言い、「POTS」と呼ばれる難病を患っている。

 POTSとは体位性頻脈症候群のことで、起立性調節障害の一型と考えられている病気である。

 立っていると急に心拍数が上昇してしまい、ケイティさんの場合、一気に1分間180近くに達することも。

 さらにめまいや頭痛、動悸、息切れといった症状が現れて、ひどい時には意識を失ってしまう。倦怠感や睡眠障害のほか、光や音への過敏症が現れることもあるという。

 ケイティさんもひどい頭痛や動悸、胸の痛み、全身の痒み、そして腎不全といった症状と365日闘い続けている。

 はっきりとした原因はわかっておらず、患者によって一人ひとり症状が違うため、診断も難しく、治療方法も確立していないのだそうだ。

 いつ何が起こるかわからない、日常生活にも差し支える難病だが、一見すると健康な人と変わらないため、なかなか周囲に理解されにくい病気でもある。

 そんなケイティさんにとってなくてはならない相棒が、サービスドッグのベイリーなのだ。

 実はベイリーがこの時足の上に乗っているのは、自分の身体の重さを使った加圧療法なのである。

体重をかけることで血流を助け、症状を改善させる効果が期待できるんだそう。

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 ケイティさんの人生は、今も病気との闘いである。いつ発作が襲ってくるかわからない、爆弾を抱えているような毎日。他の多くの人たちと同じような日常生活を送るのは夢のまた夢だ。

 そんな中、ベイリーの存在が彼女に安心と喜びを与えてくれる。もしベイリーがいなかったら?と思うと、「ゾッとする」と語るケイティさん。

健康な人には簡単な家事も、私にとっては挑戦です。以前は2分でできた洗濯機の操作が、今では何時間もかかります。

何事も当たり前だと思わないでください。私は家事を普通にできるようになれるなら何でも差し出すでしょう。

POTSを抱えて一人で暮らすのは恐ろしいことです。いつ何が起こるかわかりませんから。

ベイリーは私に何かあったら、玄関を出て隣人の家へ行き、助けを求めるように訓練されています

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サービスドッグの必要性を理解してもらえないことも

 ケイティさんにとって一番つらいのは、サービスドッグの存在や必要性をわかってもらえないときだという。

 彼女とベイリーは何度も何度も、さまざまな場所で文句を言われ、出て行けと言われる経験をしてきた。

「ペットを連れてくるな」と言われることはしょっちゅうです。その度にこれはサービスドッグだと説明するのですが、わかってもらえないことも多いのです

 アメリカには現在、サービスドッグの登録制度はない。そのため盲導犬などとは違い、訓練を受けていない犬も多く、特に食料品店などでは嫌がられることも多いのだとか。

 ケイティさんはその度に絶望し、悲しい思いをかみしめている

「私は注目を浴びるために、介助犬のフリをしている。私の病気はでっち上げで、すべて気のせい。ベイリーは精神的な支えにすぎない」

これが、目に見えない病気も存在し、「でっち上げ」ではないことを理解していない一部の人々の思い込みです。

私は普通で健康に見えるかもしれませn。でも痛みや病気が目に見えないからといって、それがでっち上げだということにはなりません。目に見えない病気を持つ私たちは、毎日絶えず質問されたり、失礼な扱いを受けたり、睨まれたりしています。

私たちはただ、生き延びようとしているだけです。

絶え間ない痛みや不快感、恐怖を抱えながら生きているのです。

私たちが切に願うのは、他人を判断したり非難したりするのではなく、理解し親切であってほしいということです。

私はベイリーに毎日助けられています。彼は私のパートナーであり、命綱でもあります。病気と闘いながら、私が充実した人生を送れているのは、ベイリーがいるからこそなのです

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 ちなみに日本の状況はどうかというと、盲導犬・聴導犬・介助犬の3種類が「アシスタンス・ドッグ(身体障碍者補助犬)」として認められている。

 その存在は身体障がい者補助犬法(補助犬法)によって定義され、公共施設はもちろん、飲食店や宿泊施設、商業施設などが利用できるようになっている。

 補助犬の認定はいくつかの指定法人が行っているが、認定を受けるには面接や訓練を受けた上で、試験に合格する必要がある。

 ユーザーは身体障がい補助犬認定証(盲導犬使用者証)と身体障がい者補助犬健康管理手帳を常に所持し、求められたときには提示しなければならない。

 システム的にはアメリカよりも整備されているかたちだが、日本における盲導犬以外の補助犬は、2024年10月現在で約60頭しかいないそうだ。

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