サイコパス傾向が高い人は痛みに鈍感。共感力の欠如と関連性が示唆される

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 サイコパスと聞くと、冷淡で無慈悲で犯罪に関与するような人物を思い浮かべるかもしれないが、必ずしもそうではない。「善か悪か」で単純に分けられるものではなく、実は誰もが程度の差はあれどサイコパス的な傾向を持っている。

 そして、最新の研究によると、サイコパス傾向が高い人ほど「痛みを感じにくい」ことが明らかになった。

 さらに、この「痛みに対する鈍感さ」が、人への共感力の低さにも関係している可能性があるという。

サイコパスとは? その特徴と脳の違い

 サイコパス(精神病質)とは、恒常的なパーソナリティ障害[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3]の一種で、他人への共感が乏しく、冷静で衝動的な性格を持つ人のことを指す。

 しかし、サイコパスは「特定の人だけが持つ特殊な性格」ではなく、誰もが程度の差はあれどサイコパス傾向を持っている。医師や研究者が「サイコパス」と診断するのは、その傾向が極端に高い場合に限られる。

サイコパスの特徴は、大きく3つに分けられる。

  • 対人面:表面的には魅力的で話が上手いが、人を操る傾向がある。
  • 感情面:他人の気持ちに共感しにくく、罪悪感や恐怖心が薄い。
  • 行動面:衝動的で無責任な行動を取りやすく、危険を恐れずにリスクの高い選択をする。

 これまでの研究によると、サイコパス傾向の高い人は、脳の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」や「扁桃体(へんとうたい)」の働きが弱いことが確認されている。

 前頭前野は道徳的な判断や意思決定を、扁桃体は恐怖や感情の処理を担当する部分だ。また、一般人よりも脳の「線条体」という部分が10%大きいことも判明しており、この部分は各種認知機能の調整を司る領域の一部だ。

 こうした脳の違いが、痛みの感じ方や共感の欠如に影響している可能性があるという。

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サイコパス傾向が高い人は痛みに鈍感なことが判明

 英リヴァプール・ジョン・ムーア大学の研究チームは、サイコパス傾向の高い人と本人が感じる痛みの関連性を調査する実験を行い研究論文を発表[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0306461]した。

 研究チームは参加者の指先に小さな円形の装置を押し当て、圧力をかけることで痛みを与えた。

 その後すべての参加者に「どのくらいの圧力まで耐えられるか」を測定したところ、 サイコパス傾向の低い人と高い人の間で、耐えられる最大の圧力には大きな違いはなかった。

 しかし、その後の評価で興味深い結果が出た。

 参加者全員にまったく同じ圧力(痛み)かけたところ、サイコパス傾向が高い人はの方が「痛みを少ない」と感じていたのだ。

 つまり、耐えられる圧力の限界は同じでも、 実際に痛みをどの程度感じるかは、サイコパス傾向によって異なっていた、ということになる。

 また、研究では、参加者の皮膚電気活動(SCR)も測定した。SCRは、ストレスや恐怖を感じるときに発汗量が増える生理反応を測る指標だ。

 ところが、サイコパス傾向の高い人も低い人も、SCRの数値に大きな違いはなかった。これは、サイコパス傾向が高い人は、実際には痛みを感じているが、それを気にしない心理的な特徴があることを示している。

 おそらくこれが、より大きなリスクをとること[https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/13803395.2017.1300236?casa_token=uDk3qAvuyDsAAAAA:d5JRSQmz6E-Ltk0BNqqrHVeNCO7yYVy4o4zdGQ-TFOdoaV4e7GZNSeoMSSi6OcgUig9qPr7o0NYMgQ]や、他者に対する攻撃性の増大[https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0272735822001258?casa_token=FA4YoXKJ9E8AAAAA:pFloEPpBI-SZ-lWPs7i5ifUxXN5PldcUQbh8aCwzGXk0bkLyxvf1XRTCHyn8t4bbrIAoAqN-224]と関係する理由を説明しているのだろう。

 彼らは、他の人々と同じように痛みの感覚を認識しないのだ。

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サイコパス傾向の高い人と「他人の痛み」の関係を調査

 次に、サイコパス傾向の高い人が「他人の痛み」にどう反応するかを調べる実験が行われた。

 研究チームは、参加者に「手がドアに挟まれる」「裸足でガラスを踏む」などの痛みを伴う画像を見せ、そのときの反応を調べた。

 すると、 サイコパス傾向の高い人は、共感度を測る自己評価でも「他人の痛みを気にしない」と答え、SCRの測定でも「生理的な反応がほとんど見られない」という結果が出た

 これは、2015年に行われた別の研究とも一致している。の研究では、サイコパス傾向の高い人は、他人が苦しんでいる映像を見たとき、脳の活動がほとんど変化しないことが確認された。他人の痛みを感じ取る能力が生まれつき低い可能性がある のだ。

 また、2019年の研究[https://www.cambridge.org/core/journals/development-and-psychopathology/article/abs/callousunemotional-traits-and-fearlessness-a-cardiovascular-psychophysiological-perspective-in-two-adolescent-samples-using-virtual-reality/C719CB996D7FB7D4362D9C59F234C0A3]によると、サイコパス傾向の高い子供たちは恐怖を感じた際に、「感情の反応が鈍くなる、周囲との関わりを避ける、リスクの高い行動をとる」 などの極端な対処行動をとる傾向があることも示されている。

 これらの研究結果を総合すると、「サイコパス傾向の高い人は、自分の身体の生理的な反応と心理的な感覚がうまく結びついていない可能性がある」 と考えられる。「他人の痛みを感じ取る能力が生まれつき低い可能性がある」のだ。

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サイコパス傾向が強みとなることも

 今回の研究から、サイコパス傾向が高い人は「痛みに鈍感」であり、それが共感力が低いことと関連している可能性が示された。

 痛みを生理的には感じていても、心理的に重要視していないため、他人の痛みも理解しにくいのかもしれない。

 しかし、サイコパスの特徴は「悪」だけではなく、状況によっては「強み」となる場合もある。

 2022年の研究[https://psycnet.apa.org/buy/2022-57783-001]によると、サイコパス特性には「ストレス耐性が高く、冷静な判断ができる」というプラスの側面もある。特に医師や外科医などの職業では、この特性が役立つことがあるという。

 人は自分にとって未知のもの、わからないものに対して本能的に恐怖心を抱く。今回の研究は、サイコパスの特性や、人間の多様な性格や脳の働きを理解するためのヒントを与えてくれるかもしれない。

追記:(2025/03/29)本文を一部訂正しました。

References: Publishing.rcseng.ac.uk[https://publishing.rcseng.ac.uk/doi/full/10.1308/rcsbull.2015.331] / Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0306461] / Psychopaths experience pain differently, even when their bodies say otherwise[https://theconversation.com/psychopaths-experience-pain-differently-even-when-their-bodies-say-otherwise-251529]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

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