氷山の下に広がる未知の世界、南極の海底で発見された驚異の生態系
水深230mで発見された大きな海綿動物とイソギンチャクの群れ image credit:Schmidt Ocean Insitute

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 シュミット海洋研究所の調査船に乗る国際研究チームは、南極の分厚い氷の下で、これまで誰も目にしたことない生態系が営まれていることを発見した。

 水深最大1300mのその深海底は、つい最近まで分厚い氷によって覆われていたが、気候変動の影響により、東京23区の広さにも匹敵する巨大な氷山が分離した。

 これまで人類が絶対に到達できなかった異世界が、突如として開けたのである。

 そこで研究チームが目にしたものは、多種多様な珍しい生き物たちで、中には未知の存在もあり、新種がいる可能性も高いという。

南極の氷が崩壊し、未知の海底が現れる

 今年1月、南極半島とアレキサンダー島を隔てるジョージ六世棚氷から、A‑84と呼ばれる巨大な氷山が分離した。

 それによって510km2、すなわち東京23区の面積にも匹敵する異世界が突如として口を開けたのである。

 これを知ったシュミット海洋研究所の調査船「RV Falkor Too」に乗る国際研究チームは、人類がこれまで到達したことのない領域を調べる千載一遇のチャンスと、予定を変更して急遽現地に向かった。

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 ポルトガル、アヴェイロ大学の生物学者パトリシア・エスクエテ博士は、「チャンスを逃さぬよう、探検の計画を変更して深海の状況を観察することにしました」と、ニュースリリース[https://schmidtocean.org/thriving-antarctic-ecosystems-found-in-wake-of-recently-detached-iceberg/]で述べている。

 研究チームの眼前に広がっていたのは、これまで人類が絶対に到達できなかった水深最大1300mの深海底だ。

 無人の潜水ビークル「ROV SuBastian」を利用した8日間の調査では、サンゴや海綿によって支えられた多種多様な珍しい生物たちに出会うことができたという。

無人の潜水ビークル「ROV SuBastian」を利用した8日間の調査では、これまで誰も目にしたことがない知られざる生態系が発見されている

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氷の下に織りなされた知られざる生態系

 観察された生物は、たとえばコオリウオ、巨大なウミグモ、タコなどで、中には新種らしきものも目撃されている。

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 「これほど美しく繁栄する生態系が存在するとは予想外です」と語るエスクエテ博士。

 その大きさから、そうした生き物たちの群れは、数十年か数百年も前からそこにいたと考えられるという。

 だが不思議なのは、それらがどうやって生きているのかだ。

 一般に、深海の生態系は浅いところから沈んでくる栄養に依存して生きている。

 だが、今回調査されたのは、何世紀もの間暑さ厚さ150mもある分厚い氷によっておおわれていたところだ。

頑丈すぎる屋根があるようなもので、頭上からエサが落ちてくることはない。

 研究チームは、栄養は上から沈んでくるかわりに、海流に乗って運ばれてくるのだろうと考えているが、その詳しいメカニズムはまだよくわかっていない。

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生態系発見の裏で懸念すべき地球の変化

 このような未知の海底を調査できたことは望外の喜びだろうが、それは同時に懸念すべきことでもある。

 気候変動の影響で、南極の氷床はここ数十年で縮小の一途を辿っている。巨大な氷山が分離したのもそのせいだ(NASAの衛星はそうした地球の変化を克明に捉えている)

 A‑84氷山が分離したジョージ六世氷棚は、南極半島で2番目に大きな棚氷だが、予備的なデータはここから溶けた水が大量に流れていることを示唆しているそうだ。

追記:(2025/03/30)本文を一部訂正しました。

References: Schmidtocean[https://schmidtocean.org/thriving-antarctic-ecosystems-found-in-wake-of-recently-detached-iceberg/]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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