
これまでサメは無口で寡黙であると考えられてきた。魚の中には浮袋を使って音を出す種はいるが、サメにはそれがない。
だがニュージーランドで海洋生物学者が、ある種のサメが鳴き声(音)を出していることを発見、その音を録音することに成功した。
しかもサメは意図的に音を出しているという。サメはなぜ音を出すのか?ではサメの鳴き声を聞いてみようじゃないか。
鳴き声を出すホシザメの仲間「リグ」
米国ウッズホール海洋研究所をはじめとする研究チームによって鳴き声が確認されたのは、ドチザメ科「ホシザメ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%B7%E3%82%B6%E3%83%A1]」の仲間(Mustelus lenticulatus)だ。
「リグ」の愛称で呼ばれるこのサメは、ニュージーランド周辺の大陸棚や河口に生息する種で、オスは最大で125cm、メスは151cmに達する。
主食やカニなどの甲殻類や軟体動物、多毛類だ。そのため鋭い歯はもたず、カニや貝などの殻を割るのに便利なプレート状の歯を持っている。
ちなみに食べるとおいしいらしく、商業的に漁獲されており、ニュージーランドのフィッシュアンドチップス店では「レモンフィッシュ」という名前で出回っている。
サメの聴覚を調べていた所、鳴き声を出すことが判明
研究チームは、このサメの聴覚について調べるため、2021年5月から2022年4月にかけて、オス5匹・メス5匹のリグを実験水槽に入れ、20秒間、手でグッと掴んで引き上げるという方法で観察を行った。
すると不意に「カチッカチッ」といった音が聞こえてきたのだ。
これは研究チームを驚かせた。
と言うのも、これまでサメが鳴き声を上げることはないとされてきたからだ。
魚の中には浮袋を使って音を出す種がいるが、サメにはそれがない。だから音を出せないと考えられていた。
そして捕食者であるサメが音を立てると獲物が逃げてしまうため、無音なのは理にかなっていると思われていた。だが、実際には出せたのだ。
ではその音を聞いてみよう。
この音は平均48mm秒の短いもので、周波数は2.4~18.5kHzに及んだ。特に2.4kHzの音は多くの人間にも聞こえる範囲である。
驚くべきことに、これらの音の大きさは最大166デシベルに達し、拳銃の発砲音や爆竹の音に匹敵するほどだった。
サメは意図的に歯で鳴き声を出していた
研究チームはそれが意図的なものであるかどうかを調べるため、水槽に水中マイクを仕掛け、色々と試してみた。
すると、やはりどのサメも掴まれた際に音を出すことがわかった。ところが、それに慣れると、だんだんと鳴き声を上げなくなったのだ。
これらの結果から、研究チームは「この音は意図的に出しているもので、サメの驚きや恐怖に対する反応ではないか」と推測している。
さらに、この音がどのように発生しているのかについても調査が行われた。
その結果、サメが口を素早く閉じることで歯を打ち鳴らし、音を生じさせている可能性が高いことが分かった。なので、正確には鳴き声というのとは違うだろう。
ただし、現時点では仮説の段階であり、さらなる研究が必要とされている。
サメはいったい何のために音を出しているのか?
いったいリグ(このサメ)は何のために音を発しているのか?サメ自身はこの音を聞くことができるのか?
もしサメがこの音を聞き取ることができるならば、仲間とのコミュニケーション手段として使われている可能性がある。
だが、その周波数はサメの可聴範囲を超えており、サメ本人にはほとんど聞こえていないようだ。
ニュージーランドとオーストラリアでサメの標識調査を行っているスコット・ティンデール氏は、野生のリグが同様のクリック音を発しているのを聞いたことがあるという。
彼は、「リグは、自身のエサであるテッポウエビの音を真似し、エビをおびき寄せるために音を発しているのではないか」との仮説を提唱しているが、推測の域を出ない。こちらも更なる研究が必要となるだろう。
この研究は『Royal Society Open Science[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.242212]』(2025年3月26日付)に掲載された。
References: Royalsocietypublishing[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.242212] / Phys.org[https://phys.org/news/2025-03-biologists-witness-case-shark-intentionally.html] / Sciencealert[https://www.sciencealert.com/hear-the-first-ever-recordings-of-sharks-actively-making-noises]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。