AIは人間を超えられない?現在のAIでは汎用人工知能に達しないと76%の専門家が予測

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 近年、AIの発展は目覚ましいものがあるが、現在の技術では、人間のような知能を持ち、様々な分野の作業を自律的に実行できる汎用人工知能(AGI)にたどりつくことはないと多くの専門家が予測している。

 アメリカ人工知能学会が行った調査では、475人の専門家のうち76%が「現在の技術を拡大するだけでは、人間のように学習し適応できるAIにはならない」と考えていることが分かった。

 ということは、このままでは怖れられていた技術特異点(シンギュラリティ)が来ないということなのか?詳しく見ていこう。

今の方法では限界があると多くの専門家

 人間のように自由に考え、様々な作業をこなし、自律的に新しいことを学べるAIは「汎用人工知能(AGI)」と呼ばれる。

 現在のAIは特定の作業に特化しており、「特化型AI(Narrow AI)」とされる。

 例えば、ChatGPTのようなAIは、人間が書いた文章を学習して、それをもとに文章を作ることはできる。

 しかし、自分で新しいアイデアを考えたり、まったく未知の問題を解決したりすることはできない。

 カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授は、「GPT-4のリリース後、AIの進化はゆっくりになっている。データや計算能力を増やすだけでは、大きな進歩は望めない」と指摘している。

 また、テクノロジー企業はすでに莫大な資金を投じており、途中でやめるわけにはいかないため、さらに投資を続けるしかない状況にあるという。

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AI開発における様々な問題

 AIがここまで発展した理由の一つに、「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれる技術がある。これは、人間が書いた大量のテキストを学習し、そのパターンを覚えることで、文章を作ったり、質問に答えたりするAIの仕組みだ。

 このLLMの基盤となっているのが、「トランスフォーマー[https://ja.wikipedia.org/wiki/Transformer_(%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E5%AD%A6%E7%BF%92%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB)]」という技術だ。これは2017年にGoogleの研究者が開発したもので、AIが大量のデータを学習して、より自然な文章を作れるようにする仕組みだ。

 しかし、この技術には限界があることが分かってきた。

 AIの学習には、莫大なデータと計算能力が必要だ。

そのため、AIを開発・運用するには多くの費用とエネルギーがかかる。

 例えば、2024年には、生成AI業界全体で約560億ドル(約6兆1600億円)もの資金が投じられた。しかし、その結果として大きな技術革新が起きたわけではなかった。

 また、AIの動作に必要なデータセンターの電力消費や二酸化炭素(CO₂)排出量も増加しており、2018年と比べて3倍に増えている。

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AI用の学習データは2030年までに枯渇する可能性

 さらに、AIを学習させるための人間が作ったデータは限られており、2030年頃にはデータの供給が追いつかなくなる可能性が指摘されている。

 これに対し、一部の企業はAI自身が作った「合成データ」を使うことを考えているが、これには誤った情報が増えたり、AIの性能が低下したりするリスクがある。

 今回の調査に参加したカリフォルニア大学バークレー校のコンピュータ科学者、スチュアート・ラッセル氏は、「より根本的な問題」があるのだと語る。

 それは現行のトランスフォーマーに内在する制約だ。

 「今のやり方の基本的な問題は、すべて大規模なフィードフォワード回路の訓練をともなう点にあるでしょう」と、ラッセル氏は言う。

 フィードフォワード回路とは、入力 > 処理 > 出力と一方向に情報が流れる制御方法のことだ。入力に応じた出力があらかじめ決まっており、それまでの出力や実際の状態によって出力が左右されることはない。

 その問題点は、ちょっとした概念を表現するだけでも、巨大な回路が必要になることだ。AIの性能を上げようとすれば膨大なデータを与えねばならず、結果として表現がつぎはぎ的になり、“抜け”が生じる。

 ラッセル氏によると、そのせいで「超強力なはずの囲碁AIが普通の人間に負ける」といった事態が起きるのだという。

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今後のAI開発はどうなる?新たなアプローチの可能性 

 こうしたボトルネックは今、AIの性能アップに取り組む企業に大きな壁となって立ちはだかっているようだ。

 例えば、噂されるOpenAIの最新モデルGPT-5が公開されない背景には、これまでのアプローチに内在する根本的な問題が関係しているのではないかと、調査の回答者は指摘している。

 とは言え、新しい技術によって突破口が開かれる可能性もある。

 現在注目されているのは、「推論型AI」と呼ばれる技術だ。

 これは、AIが質問に対してより深く考え、正確な答えを出せるようにする仕組みである。こうしたモデルと、ほかの機械学習システムとの組み合わせるというアプローチが有望ではないかと、専門家は考えている。

 中国のDeepSeekという企業が、アメリカの大手企業が莫大な資金をかけて開発したAIと同じレベルの性能を、はるかに少ないコストとエネルギーで達成したことは大きな話題となった。

 このように、「大きなモデルを作ればAIが進化する」という考え方が見直されつつあり、より効率的なAIの開発方法が求められている。

 オレゴン州立大学のトーマス・ディエッテリッヒ教授は、「過去の技術革新を振り返ると、大きな成功を収めるまでには10~20年かかることが多い」と述べている。

 現在のAI技術は急速に進歩してきたが、単純に「データを増やし、計算能力を高めればよい」という時代は終わりを迎えつつある。

 AIの未来を切り開くためには、これまでの方法にこだわらず、新しい技術や効率的な開発手法を模索することが重要だ。

この調査結果は、『AAAI 2025 PRESIDENTIAL PANEL ON THE Future of AI Research[https://aaai.org/wp-content/uploads/2025/03/AAAI-2025-PresPanel-Report-Digital-3.7.25.pdf]』(2025年3月)というレポートで発表された。

References: AAAI 2025 PRESIDENTIAL PANEL ON THE Future of AI Research[https://aaai.org/wp-content/uploads/2025/03/AAAI-2025-PresPanel-Report-Digital-3.7.25.pdf] / Livescience[https://www.livescience.com/technology/artificial-intelligence/current-ai-models-a-dead-end-for-human-level-intelligence-expert-survey-claims]

本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。

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