
南アフリカで発見された新種の化石には頭も足もない。そのかわりに体の中身が完璧なまでに保存されていた。
発見から25年を経てこの古生物は新種と認定され、ケルボス スサナエ(Keurbos susanae)と名付けられたが、「スー(Sue)」という愛称が付けられている。
なんだか理科室の人体模型を連想させるが、それより極端だ。なにしろ化石に外側がなく、内側だけが残されているのだ。
筋肉・腱・腸といった内部組織が美しく保存されているかわりに、頑丈な外骨格・脚や頭部といった部分はない。通常の化石とまったくあべこべだ。
4億4400万年前の節足動物の仲間とされるが、詳しいことはわかっていない。だが、なぜ内側だけが化石になるなんて奇妙なことが起きたのだろう?その謎に迫ってみよう。
南アフリカで発見された内部だけ残された謎の化石
南アフリカのケープタウンから約400km北に位置するソーム・シェールと呼ばれる4億4400万年前の地層で、かつて存在した未知の節足動物と思われる化石が発見された。
この生物は通常では考えられない独特の状態で化石になっていた。筋肉・腱・腸などの内部構造がしっかり残っているのに、本来化石として残るはずの硬い外骨格や脚、頭部は消失していた。
この驚くべき化石は、イギリス、レスター大学の古生物学者であるサラ・ギャボット教授が25年間研究していたもので、正式に「Keurbos susanae(ケルボス・スサナエ)」と命名された。
さらにギャボット教授の母親、スーザンさんにちなんで「スー(Sue)」という愛称が付けられた。
ギャボット教授は、「スーはまるで内側が表に出たようなアベコベ生物のよう。
なぜ外側がなく内部だけが残されていたのか?
約4億8830万年前から約4億4370万年前の「オルドビス紀[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%93%E3%82%B9%E7%B4%80]」と呼ばれるその時代、生物の本格的な陸上進出はまだ始まっておらず、ほとんどの生物は海の中にいた。
実際、節足動物の仲間とされるスーが発掘されたのは、当時海だったところだ。
この時代は「五大大量絶滅」の一つ(O-S境界)が起きた氷期としても知られ、じつに地球上の種の約85%が姿を消した受難の時代だった。
スーの場合、その生息地であった海洋盆地は寒さの影響が比較的軽く、数々の生物が避難していたと考えられている。
ただしスーが最後を迎え、埋もれた堆積物の内部は危険な環境だった。酸素に乏しく、きわめて有害な硫化水素が溶け込んでいたからだ。
英国レスター大学のサラ・ギャボット教授らは、こうした環境で起きた化学反応のおかげで、まったくあべこべなスーの化石が作られたのだと推測している。
エビやカニ、クモ、ムカデの先祖となる節足動物は約5億年前から地球に存在し、その外骨格が化石として多く残されている。
しかし、スーは内部の構造がのみが保存されており、比較対象が極めて少ない。
そのため、スーが節足動物のどのグループに属するのか、進化の系統樹における位置づけは今のところ謎に包まれている。
化石に込められた母への想い
ちなみにスーの愛称はもちろん、「Keurbos susanae」という学名も、ギャボット教授の母親の名前にちなんだものだ。
じつはスーの化石は同教授が駆け出しだった25年前に、道路脇の小さな採石場で発見したものだったのだ。
スーは解剖学的に貴重なヒントをもたらす標本でありながらも、その身元の特定が難しい。そこでギャボット教授は同じような化石がほかにもないか、根気強く探し続けた。
そして最近お母さんから、「この化石に私の名前を付けるなら、私が土に埋もれて化石になる前にやってちょうだい」と言われたのだそう。
そんなわけで、もうこれ以上待てないと今発表することに決めたのだそうだ。
そのお母さんは、いつも「自分が幸せになれる仕事をしなさい、それが何であれ」と言ってくれたという。
そのおかげもあって、ギャボット教授は今も、岩に隠れた化石を掘り、古代生物の謎を解き明かし続けている。
スーという名には、そんなお母さんへの感謝が込められているそうだ。
この研究は『Palaeontology[https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/spp2.70004]』(2025年3月26日付)に掲載された。
References: New species revealed after 25 years of study | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1078275]
本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。