
宇宙を舞台に異星人たちと戦い、ときに小惑星衝突の危機から地球を救う、サイエンスフィクション(SF)は世界的に見ると人気の高いジャンルの1つである。
新たな研究によると、全人類的・世界的な視点から描かれるSFに日頃から親しんでいると、畏敬の念が育まれ、全人類とつながっているという感覚が高まるのだという。
SFは単なる娯楽以上の尊いものをもたらしてくれるのだ。この事実を知れば、素晴らしき科学と空想の世界に飛び込むきっかけになるかもしれない。
SFと人間心理のつながりを研究
メディアは諸刃の剣だ。伝える内容次第で、人々や世界への共感や理解が育まれることもあれば、偏見や憎しみを増幅させることもある。
今回、中国、清華大学の研究チームは、とりわけSFが「全人類との一体感」に与える影響、すなわち国籍・人種・出自などと関わりなく、世界の人々とつながっているという感覚をどう左右するのかに焦点を当てている。
SFでは、これから人類が歩むかもしれない未来の世界が想像力たっぷりに描かれる。そうした全人類的な視点に日頃から触れることで、世界との一体感が育まれるのではないか? 研究チームはこう考えたのだ。
SF作品に触れると畏敬の念が強く芽生える
この仮説を検証するために、いくつかの調査が行われている。
最初の調査は、参加者(中国人成人約1000人)に過去に観た各種ジャンルの映画を思い出してもらい、「畏敬の念・感謝・思いやり・称賛・希望」といった感情をどれくらい感じたか質問した。
こうした感情は「自己超越的な感情」で、個人を超えた何か大きなものとつながっている感覚に関係しているのだという。
その結果、SFは「畏敬の念」を強く感じさせることが判明した。
畏敬の念とは、自然や宇宙、崇高な生き方への感動を通して、自然との関係や調和の中で生かされていることなどを自覚すること、
「怖いくらいにすごい」「自分はちっぽけだ」と思うような、尊敬と恐れがまざった特別な感情のことだ。
その力はほかのどんなジャンルよりも強力で、畏敬の念はSFならではの感情であることがうかがえた。
SFは、全人類との一体感を深める
この結果を踏まえ、次の調査では、SFで畏敬の念を抱くことが、全人類との一体感を育むことにつながるのかどうか分析された。
具体的には参加者(約1000人)に、3種類の短い物語のうち1つを読んでもらうという実験が行われた。
その短編物語はどれも同じテーマだが、その描き方のアプローチにはSF的・現実的・物語性なしの3タイプがあった。
たとえば、脅威から逃れる人々というテーマの短編物語は、同じ脅威でも小惑星(SF的)だったり、山火事(現実的)だったりした。
そしてこれを読んだもらった後で、どのような感情を感じたか、人類とのつながりをどれほど感じるのか報告してもらう。
するとやはりSFは畏敬の念を大幅に高めると当時に、全人類との一体感も高まることが確認されたのだ。
統計的な分析では、畏敬の念は確かに全人類との一体感に相関していることが確認されている。
SFに多く触れている人ほど一体感が生まれやすい
さらに、その後の2つの実験では、日常的にSFに触れている人ほど、普段から畏敬の念を抱きやすいこと、さらには全人類との一体感が高くなることもわかった。
全人類との一体感の高まりは畏敬の念を高める効果もあり、相乗効果でますます一体感が高まることが確認されている。
こうした結果は、SFが全人類との一体感を育んでくれることを示唆している。
ただし今回の研究には限界がある
ただし、研究チームはいくつか限界があることを認めている。
たとえば、SFの効果を確かめるために利用された短編物語は、長編映画やバーチャルリアリティなどに比べれば没入感が高くない。
また参加者は全員が中国人で、強い集団主義的な傾向があり、文化的価値観も同一だったという問題もある。
したがって、今回の結果が普遍的かどうかは、他の国や地域も調べてみなければわからないという。
なお研究チームによれば、全人類との一体感を高めてくれるのは、SFだけではない可能性もあるとのこと。
たとえばヒューマンドラマやロマンスといったジャンルなら、思いやりや愛などの感情を育み、世界との一体感を高めてくれるかもしれないそうだ。
この研究は『Communication Research[https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00936502241295300]』(2024年11月7日付)に掲載された。
References: Psypost[https://www.psypost.org/science-fiction-may-help-foster-a-sense-of-global-solidarity-by-evoking-awe-study-finds/]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。