ガラパゴスの鳥に異変、車の騒音に悩まされ、攻撃的な性格に変貌
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 自然の宝庫と言われている世界遺産、ガラパゴス諸島で今、よからぬ変化が起きている。黄色くてかわいらしい小鳥が、車の騒音により鳴き声が変わり、性格まで攻撃的になってきているというのだ。

 頻繁に車両の騒音に晒されている、ガラパゴスキイロアメリカムシクイは、縄張りを守るための声をかき消されてしまうため、より大胆になり、大きな声で鳴き、「ケンカ腰」な態度を取るようになったという。

ガラパゴスの歌う鳥「キイロアメリカムシクイ」に異変

 ガラパゴス諸島は、チャールズ・ダーウィンが進化論を発展させるうえで重要なヒントを得た場所として知られている。

 だが近年では観光業の発展や定住者の増加によって、諸島内の人口は年6%以上のペースで増加し、交通量も年々増え、道路や船の騒音公害が深刻化している。

 人間の出す騒音により、動物たちの行動に変化が表れ始めた。特に注目されているのが、ガラパゴス諸島に固有の小鳥、「ガラパゴスキイロアメリカムシクイ(Galápagos yellow warbler)」だ。

 この鳥はアメリカ大陸に分布するキイロアメリカムシクイ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%82%A4]とは遺伝的に異なる、固有亜種として知られている。

 体長は約12~13cmで、鮮やかな黄色の体色をしている。主に低木林やマングローブ林などに生息し、昆虫やクモ、小さな果実を食べる雑食性の鳥である。

 この鳥たちは、オスが独特なさえずりを使って縄張りを守っている。しかし、騒音がその「歌」をかき消してしまうことで、鳥たちの行動が変わり始めている。

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騒音があると攻撃的になり、鳴き声を変える

 イギリスのアングリア・ラスキン大とオーストリアのウィーン大学・コンラート・ローレンツ研究センタの共同研究チームは、ガラパゴスキイロアメリカムシクイの生態を探るため、フロレアナ島とサンタクルス島の38か所で調査を実施した。

 うち20か所は道路から50m以内、18か所は100m以上離れた場所だった。

 研究者たちは、録音された鳥のさえずりを再生することで、他のオス鳥が縄張りに侵入してきたと錯覚させるテストを実施。さらに、一部の再生音には交通騒音を付け加えて実験を比較した。

 その結果、道路の近くに住む鳥たちは、音の発信源に素早く接近し、威嚇の姿勢を強め、実際に戦う準備を見せた。

  交通量が少ないフロレアナ島(およそ10台の車しかない)でも同様の反応があったことから、ほんの少しの車の存在でも影響があることが明らかになった。

 さらに、騒音環境下では鳥の歌の特徴にも変化が見られた。

 人口の多いサンタ・クルス島の個体は、車の騒音があるときに歌の長さを延ばし、より高い周波数でさえずるようになった。これは、低い音域を使う車の音にかき消されないようにするための適応と考えられる。

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 この研究の共同著者であるアングリア・ラスキン大学の行動生態学上級講師、チャーラル・アクチャイ博士は次のように語っている。

鳥たちはさえずりを使って縄張りを守りますが、車の騒音でこのシグナルがかき消されてしまうと、実際に体を使った攻撃に出るしかなくなるのです。これは適応行動の一種と考えられます。

このような行動の変化が、道路の近くで頻繁に見られるのは、彼らが日常的に騒音を経験しているからでしょう(チャーラル・アクチャイ博士)

 また博士は、「環境保全の取り組みにおいて、動物の“行動の柔軟性(行動可塑性)”を考慮することが重要です。騒音が野生動物に与える影響は、離れた島でさえ無視できません」とも強調した。

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人間活動と自然環境の複雑な関係

 この研究が明らかにしたのは、鳥たちが環境に適応する柔軟性と限界である。

 歌を変え、行動を変え、何とか生き残ろうとしている姿はたくましいが、本来の姿とはかけ離れたものになりつつある。

 ガラパゴス諸島の野鳥たちは、静けさとゆるやかな時間を愛する生き物だ。人間の都合でその環境が乱され続ければ、将来的に鳥たちの生態や進化そのものが変わってしまう可能性もある。

 この研究は『Animal Behaviour[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347225000466?via%3Dihub]』誌(2025年4月)に掲載された。

References: Sciencedirect[https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003347225000466?via%3Dihub] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/multimedia/1065178]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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