
音楽が大好きで、気がつけばいつもイヤホンを付けている人がいる。そんな音楽愛好家たちの「音楽を楽しむ力」は、もしかすると生まれつきのものかもしれない。
オランダ、ドイツ、スウェーデンの研究機関が、9,000人以上の双子のデータを分析した結果、音楽を楽しむ能力は遺伝子によって左右されることがわかった。
ここで言っているのは、”音楽の能力”ではなく、”音楽を楽しむ能力”のことだ。
そして意外にも音楽を楽しむ能力は、必ずしも音楽の才能とは関係していない。それどころか、もっと一般的な物事を楽しむ能力とも完全に同じではないという。
なぜ人は音楽を楽しむことができるのか?
なぜ多くの人は音楽を楽しむことができるのか?人によって音楽の楽しみ方に差があるのか?
そもそもなぜ音楽を楽しめる人がいるのか?
この疑問は、かつて進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンでさえ頭を悩ませたテーマだ。
彼は1871年の著書『The Descent of Man』の中で、「人間が音楽を楽しんだり音を生み出す能力は、日常生活においてほとんど役に立たないため、人間に備わった最も神秘的なものの一つと考えられる」と記している。
人によって音楽の楽しみ方に差があるのは、遺伝子の違いが関係しているのではないか?」そう考えたのは、オランダのマックス・プランク心理言語学研究所のギアコモ・ビニャルディ博士だ。
そこで同研究所と、ドイツのマックス・プランク実験美学研究所、スウェーデンのカロリンスカ研究所が合同で、この仮説を検証するために大規模な双子研究を実施した。
一卵性双生児と二卵性双生児、9000組以上を調査
研究チームは、一卵性双生児と二卵性双生児を比較する「ツインデザイン」と呼ばれる手法を使った。
この方法では、遺伝子の類似レベルがほぼ同じ一卵性双生児が、、類似レベルが平均で50%の二卵性双生児よりも似た特徴を持っていれば、それは遺伝の影響と推定できるというものだ。
今回の調査では、スウェーデンに住む9,000組以上の双子を対象に行われた。
参加者たちは、音楽を聴いてどれくらい喜びを感じるか(音楽的報酬感受性)や、日常生活の中で楽しいと感じること全般に対する反応、さらには音楽の特徴を聞き分ける力(音の高さ、メロディー、リズムなど)についての質問に答えた。
その結果、音楽から喜びを感じる力の約54%が遺伝の影響によるものであることがわかった。
つまり、音楽を楽しめるかどうかは、半分以上が生まれつきのもの、ということになる。
ビニャルディ博士は「音楽を聴いて踊りたくなる、感動して涙が出る――こうした反応も、ある程度は遺伝的に決まっている」と語っている。
ただし、音楽の好みや反応のすべてが遺伝で決まるわけではなく、環境や経験も大きく関係しているという。
遺伝子が影響するのは、あくまで「音楽から喜びを感じやすいかどうか」の部分だ。
音楽的才能や一般的な物事を楽しむ能力とは異なる遺伝子
さらに興味深いのは、音楽を楽しむ力は、より一般的な物事を楽しむ力や音楽的才能とは異なる遺伝的要素が関係していた点だ。
ビニャルディ氏らは、「感情のコントロール」「リズムに合わせて踊ること」「他人と一緒に演奏すること」など、音楽の楽しみ方の異なる側面ごとに、それぞれ別の遺伝的経路が存在していることを突き止めた。
この結果について、ビニャルディ氏は「音楽の楽しみには複雑で多様な遺伝子の関与がある。今後はどの遺伝子がこの能力に最も関わっているのかを明らかにすることで、人類がなぜ音楽を楽しめるのかという長年の謎に近づけるかもしれない」と述べている。
この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-58123-8]』(2025年3月25日付)に掲載された。
References: Nature[https://www.nature.com/articles/s41467-025-58123-8] / Mpi.nl[https://www.mpi.nl/news/genes-may-influence-our-enjoyment-music]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。