生きたコウモリたちが本を害虫から守る!ポルトガルの図書館のユニークな伝統

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 ポルトガルには本好きなら一度は訪れたい、18世紀から運営されている図書館がある。ジョアニナ図書館とマフラ国立宮殿図書館だ。

 いずれも、世界で最も美しい図書館リストに名を連ねるほどの建築美とかけがえのない歴史的価値を備えているが、もう1つ意外な共通点がある。

 これらの図書館では、虫食いから貴重な古書を守るため、何世紀にもわたり害虫駆除部隊としてコウモリを住まわせているのだ。

 にわかに信じがたいほどユニークなその伝統にせまってみよう。

歴史の長い図書館に住むコウモリたちの役割

 ジョアニナ図書館とマフラ国立宮殿図書館は、いずれも18世紀にポルトガルで建設された、歴史的に貴重かつ圧倒的に美しい図書館で、同国が誇る文化遺産となっている。

 同国最古の大学、コインブラ大学の中央に位置するジョアニナ図書館は1728年完成。所蔵数は約6万冊。

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 一方首都リスボン郊外の街マフラにあるマフラ国立宮殿図書館は1730年完成。所蔵数約3万6000冊だそう。

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 どちらもしばしば「世界で最も美しい図書館」リストに名を連ねるほど有名だが、その両方がコウモリに住み込みで働いてもらっていることをご存じだろうか?

 その目的はなんと害虫駆除。紙や革など天然素材でできている本の長期保管には、どうしても虫害のリスクがつきものだが、これら図書館では、虫の駆除のために化学薬品などは使っていない。

 書物やスタッフ、来館者らに影響をおよぼしかねない薬剤の代わりに、古くから頼っているのがなんとコウモリ部隊だ。

 彼らが夜間に虫を食べてくれるおかげで、貴重な書物が守られているという。

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毎晩覆いをかけて掃除を徹底

 まずコウモリの大きさだが、幸いにしてこれら図書館に住むコウモリは小型だそう。主にヒナコウモリ科アブラコウモリ属のソプラノアブラコウモリ(Pipistrellus pygmaeus)などで、体重は3.5~8.5g、翼開長も最大25cmほど。

 見ために脅威を感じさせるほどでないようだ。

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 コウモリのねぐらでもあるこの図書館で、小柄な夜行性のコウモリたちは日中は天井からぶら下がったり、書庫の裏に潜んでおとなしくしているが、夜はとたんに活発になりにぎやかになる。

 日が沈むとあちこちに飛び回り、害虫を捕らえていただく食事兼パトロールにいそしんでくれる。

 ただ惜しいのが生物頼りの代償というべきか、放っておくと豪華な床までコウモリの糞まみれになってしまうそう。

 そこでスタッフらは、毎晩テーブルや床を革のシートで覆い、翌朝に掃除を徹底することで糞害を防いでいる。

 貴重な本を守りつつ、清掃や管理を徹底する根気強い作業の継続により、貴重な本とコウモリの共存が続いているのだ。

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ポルトガルの図書館の建築美と歴史的価値

 映画「美女と野獣」のシーンのモデルとされるジョアニナ図書館は、バロック建築の代表としても有名だ。

 そのシンボルは、この図書館の創設者であり、その名の由来でもあるかつてのポルトガル国王、ジョアン5世の巨大な肖像画だ。

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 同館の構造は3室に分かれており、エキゾチックな木材を用いた書庫や、金箔で装飾したオーク材の本棚、目にも鮮やかな天井のフレスコ画など、それぞれの内装に威厳や格式を感じさせる。

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 一方、巨大なことでも知られるマフラ国立宮殿の図書館は、繊細さや優雅さを感じさせるロココ様式(または後期バロック調)だそう。

 大理石を贅沢に使ったカラフルな床、高さ13mもある白い天井、全長約88m、幅9.5mの大広間に整然と並ぶ木製の本棚が印象的だ。

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 こちらも息をのむほど美麗だが、各図書館とも数世紀前の貴重な書物が収められており、歴史愛好家にとっても必見のスポット。そしてその裏でコウモリが活躍している。

本は無事でも肖像画の周りは排泄物まみれ

 にしてもコウモリの爪とかで大事な本が傷つくことはないのだろうか?

 ジョアニナ図書館の副館長でコウモリたちを「名誉司書」と呼ぶアントニオ・ユージェニオ・マイア・ド・アマラル氏によると、実は書籍自体は以前から金網で覆われているという。

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 しかし本が無事な反面、内装は無傷とはいえず、防ぎようがない被害もあるようだ。

図書館の棚の本はワイヤーメッシュで保護されてるので、捕虫するコウモリに直接傷つけられないようになっています。

ただ、コウモリが図書館の名前の由来であるジョアン5世の肖像画のそばで排泄することについては対処のしようがない状態です

 またこのコウモリがいつ、どんなきっかけで住み着いたのかははっきりわかっていないが、18世紀後半から19世紀にかけ自然に住み着いた可能性があるそうだ。

 以前の管理人が意図的にコウモリを建物に呼び込んだという説もある。

 コウモリにとっても、食べ放題の上に薄暗く、天井が高い図書館は洞窟のようでちょうどいい環境だったみたいだ。

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環境保護の一環としてのコウモリのお仕事

 なお連綿と続くコウモリとの関係にはときに特別な配慮を要するそう。

 たとえば2015年、ジョアニナ図書館の巨大な扉の交換作業があった時には、作業する大工たちが毎晩川の水を飲むために外に出るコウモリのために隙間まで残しておいたそうだ。

 とまあ、とっさに結びつかないが、コウモリに書物の害虫駆除をお任せする方法は、ポルトガルを代表するこれら図書館で実際に使われている。それは自然に配慮した方法ともいえるだろう。

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 コウモリの群れでしかも糞だらけ聞くといろいろ心配になったりするが、文化的な特色のみにとどまらず、近年広がる環境保護の観点から、昔ながらの害虫駆除が、あらためて話題に挙がっているようだ。

 ついこの前も、農薬の代わりになるかもしれない害虫駆除の可能性を秘めた新種の線虫が発見されて話題になったけど、化学薬品を避け、代わりに生き物に協力してもらう方法が、自然の生態系を模した持続可能な手段として、一周回って見直されてきてるんだろうか。

References: Laughingsquid[https://laughingsquid.com/library-uses-bats-to-protect-books-from-insects/] / Atlasobscura[https://www.atlasobscura.com/articles/library-bats-coimbra-wild-life-excerpt] / Smithsonianmag[https://www.smithsonianmag.com/smart-news/bats-act-as-pest-control-at-two-old-portuguese-libraries-9950711/]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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