物理学で学ぶ最高の一杯。おいしいドリップコーヒーの淹れ方とは?
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 アメリカのペンシルベニア大学の研究者たちが、物理学を使って「最高の一杯」の最適解を導き出した。

 今回、実験の対象となったのは、ペーパーフィルターを使ったドリップ式の抽出方法だ。

おいしく淹れるコツは、「お湯を注ぐ高さ」にあった。

 コーヒー好きにはたまらない、理科好きにもグッとくるその研究成果を見ていこう。

お湯とコーヒー豆の物理学

  最終的なコーヒーの味を決めるのは、お湯がコーヒー豆の成分を抽出する効率、すなわち「抽出収率」だ。これが高い方が、コーヒー豆の成分がお湯に浸透するので、リッチなコーヒーに仕上がる。

 コーヒー好きにとって大敵なのが、この抽出収率を低下させる「チャネリング」という現象だ。

 これはお湯がコーヒー粉の中に枝のように広がっていく現象のこと。お湯が粉の中にまんべんなく染み渡らないので、その分抽出収率が低下する。

 だから美味しいコーヒーを淹れるなら、いかにしてチャネリング現象を防ぐかがポイントになる。

 米国ペンシルベニア大学の物理学者チームは、その方法を究明するために、高解像度カメラを使って、お湯がシリカゲル粒子(コーヒー豆の代わり)と相互左右する様子を解析することにした。

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お湯を注ぐベストの高さは30cm

 そこから明らかになったのは、美味しいコーヒーを淹れるには、できるだけゆっくりとお湯を注ぐのが大切ということだ。こうすることで、コーヒー豆の成分がじっくりと抽出され抽出収率が上がる。

 だが、あまりにゆっくり過ぎてもダメだ。そうすると、ポットからの水流が小さな水滴に分裂してしまい、フィルター内のコーヒー粉が撹拌されなくなる。

 底に沈殿したままのコーヒー粉では、例のチャネリング現象が起こりやすくなってしまうのだ。

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 研究チームのマーゴット・ヤング氏は、「これこそハンドドリップで避けるべきことです。これでは水流でコーヒー粉を効果的にかき混ぜられません」と、ニュースリリース[https://www.eurekalert.org/news-releases/1079393]で語る。

 そこで位置エネルギーを利用するのだ。できるだけ高いところからお湯を注ぐことで水流により多くのエネルギーを持たせ、それによってコーヒー粉の撹拌をうながす。

 ただしあまりにも高いすぎると、水流が砕けて水滴になってしまう。

 ベストなのは、注ぎ口からコーヒー粉まで約30cmの高さが良いそうだ。また、高ければ高いほど良いというものではない。

 逆に50cmを超えると、水流が空中で分裂してしまい、粉との接触が不十分となり、効率が悪くなるという。

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お財布にも地球にも優しいハンドドリップ法

 実際にこの高さからお湯を注ぐのはそれなりに技術がいると思われるが、やはり昔ながらのグースネックタイプのコーヒーポットが使いやすいだろう。

 ハンドドリップ法によるコーヒーの淹れ方は、ただ美味しいコーヒーを楽しめるというだけではない。少ない豆で十分なコーヒーエキスを抽出できるのでお財布に優しいし、ゴミが減るというメリットもある。

 とりわけ気候変動が進む地球では、今後コーヒーの栽培が難しくなるという予測もあり、こうした少ない豆で美味しいコーヒーを淹れる方法は大切なことになるかもしれない。

 またコーヒーだけにとどまらず、今回明らかになった水流と粒子との相互作用の知見は、水流を利用した廃水処理の効率を上げたり、ダムや滝による土壌の浸食を防ぐうえで役に立つと考えられるそうだ。

 何はともあれ、ここでコーヒーでも淹れてちょっと一息つくことにしよう。

追記(2025/04/14):コーヒーを注ぐ高さに間違いがありましたので訂正して再送します。

 この研究は『Physics of Fluids[https://pubs.aip.org/aip/pof/article-abstract/37/4/043332/3342795/Pour-over-coffee-Mixing-by-a-water-jet-impinging?redirectedFrom=fulltext]』(2024年4月8日付)に掲載された。

References: Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1079393]

本記事は、海外の記事を参考にし、日本の読者向けに独自の考察を加えて再構成しています。

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