
南極とグリーンランドの氷床や氷河が猛烈な勢いで解けており、地球がバランスを崩し始めている。その影響は深刻で、2100年までに地軸が最大で27mまで揺れ動く可能性があるという。
これは、スイス、チューリッヒ工科大学の研究チームが衛星データをもとに明らかにしたものだ。
地球の大きさから見れば、27mという距離は小学校のプールの縦の長さより少し長い程度だが、このぶれは、気候変動の影響が、すでに地球の動きに現れている大きな証拠でもある。
地軸とは?
地軸(ちじく)とは、地球が自転する際の軸(自転軸)で、北極と南極を結ぶ直線のことだ。この地軸は、地球が太陽のまわりを回る「公転面」に対して約23.4度傾いている。この傾きがあるおかげで、私たちは季節の変化を感じることができる。
もし地軸がまっすぐ立っていたら、地球には春夏秋冬の変化がほとんどなくなってしまうのだ。
しかし、この地軸はまったく動かないわけではない。地球はコマのように回転しており、そのバランスが変わるとわずかに揺れ動く。これを「極移動」と呼び、重さの分布が変化することで起きるとされている。
氷の融解が地球のバランスを変えている
近年、南極やグリーンランドで大量の氷が急速に解けている。NASAによると、南極では年間およそ1,500億トン、グリーンランドではおよそ2,700億トンの氷が失われており、これらの水が海に流れ出している。
このような大規模な質量移動が、地球全体の重心を変化させている。
2022年以降の南極の氷の質量変動を示すグラフ
この変化が、地球の回転に影響を与え、地軸が地表を通る位置が少しずつずれ動いているのだ。ただし、地軸そのものがずれているわけない。
2022年以降のグリーンランドの氷の質量変動を示すグラフ
2100年までに最大27mのぶれが起きる可能性
スイス・チューリッヒ工科大学地理測量学研究所の研究チームは、1900年からの衛星データや地球観測データを用いて、極移動の過去の変化と将来予測を行った。
その結果、今後の気候変動の進行次第では、地軸の通る地点が2100年までに最大で約27m揺れ動く可能性があるという。
たとえその距離がわずかに見えても、地球全体の重心が動いていることの証であり、無視できる変化ではない。気候変動がこれほどまでに深刻なスケールで影響を及ぼしていることを示している。
磁極の移動とは異なる“地球のふらつき”
ここで注意しておきたいのは、今回話題になっている地軸の揺れと、「地磁気の極(磁極)」の移動はまったく別の現象だということだ。
磁極とは、地球内部の液体金属(主に鉄とニッケル)が流動することで生まれる地磁気の力の中心で、これもまた移動している。
たとえば、北磁極は1830年代から今日にかけてカナダ北部からシベリアへ約2,250kmも移動しているが、これは地球内部の対流によるものとされている。
今回の極移動は、「地球表面で起きている質量変化(氷の融解)」が原因であり、現象としては別のものだ。
科学的視点で地球の変化を知り、未来を考える
我々の日常では、地軸が27mぶれていることを直接感じることはできない。けれど、氷が解けるという現象が、地球という巨大な天体の回転バランスにまで影響を与えているという事実は、心に留めておくべきだろう。
地球は生きており、私たちの行動もまた、その動きに少なからず関わっている。
地軸のぶれそのものは見えなくても、それがもたらす気候の変化や災害の増加といった形で、その影響を私たちは否が応でも感じることになる。
だからこそ、科学的視点でこうした変化があるという事実を知ることが、より良い未来の選択のヒントになるはずだ。
この研究は『Geophysical Research Letters[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL113405].』(2025年3月5日付)に掲載された。
References: Agupubs.onlinelibrary.wiley.com[https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024GL113405] / Climate.nasa.gov[https://climate.nasa.gov/vital-signs/ice-sheets/?intent=121]
本記事は、海外メディアの記事を参考に、日本の読者に適した形で補足を加えて再編集しています。