
恐竜は小惑星の衝突によって絶滅したという説は広く知られているが、その直前、すでに恐竜の数が減っていたのではないかという議論は、恐竜学者の間で30年以上も続いてきた。
今回、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)の研究チームが発表した新たな研究では、北米大陸で発掘された白亜紀末期の恐竜の化石記録を再分析している。
その結果、恐竜に衰退の兆候は見られず、生息域も安定していたことが明らかになった。彼らは依然として陸上を支配しており、絶滅前まで多様性を保っていた可能性が高いという。
問題は、白亜紀の最末期に生きていた恐竜たちの化石が、発見されにくい地層に埋まっている可能性があるという点だ。
化石が十分に見つからないことで「恐竜が減っていたように見える」だけかもしれない、という新たな見解が示されている。
恐竜は小惑星の衝突がなくてもいずれ絶滅した?
かつて地上を支配していた恐竜は、6600万年前、地球に巨大隕石が衝突したことで姿を消した。これは恐竜が絶滅した理由としてもっとも有力な説だろう。
だが恐竜の絶滅原因については異説もある。それによると、恐竜は隕石が衝突する前からすでに衰退しつつあったというのだ。
これが真実なら、たとえ隕石が地球に飛来しなかったとしても、彼らはいずれ地上から姿を消していたのかもしれない。
この仮説の根拠となっているのは、恐竜の化石の種数が7500万年前にピークを迎え、最終的な絶滅までどんどん減少していることだ。
その真偽については学者たちの間で30年来の論争となっており、今日にいたるまで決着はついていない。
今回ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(以下UCL)の研究チームは、この議論に一石を投じる発見をしている。
それによると、化石の種類の減少は、あくまで見かけ上のことで、必ずしも恐竜の衰退を意味しないというのだ。
白亜紀末期、恐竜は衰退していなかった
恐竜は隕石衝突前から衰退していたのか?
その真実を知るために、研究チームは、8400万年前から隕石が衝突する6600万年前までの1800万年間分の化石を分析している。
対象となったのは、アンキロサウルス科、ケラトプス科、ハドロサウルス科、ティラノサウルス科の4つの分岐群(クレード)で、いずれも北米大陸で発掘されたものだ(この時期の化石の大半がこの地域で発掘されているため)。
これらを生態学や生物多様性の研究で用いられる「占有モデル(occupancy modelling)」で分析した。
この技術は、ある種がその時代・地域にどれだけ存在していたかを、発見されている数だけでなく、見つかりにくさも加味して推定するものだ。
その結果、恐竜の生息可能なエリアの広さは白亜紀の最後までほぼ一定だったにもかかわらず、化石の発見確率は徐々に下がっていた。
化石が眠る場所は発掘が難しい
ではなぜ、北米各地域でそうした恐竜の化石の発見率が下がったのか?
そこで、化石が埋まっている土地で発掘調査を行えるかどうか(例:植物にどのくらいおおわれているか)、化石が埋まっている地層がどれだけ露出しているか、その地域で実際に発掘が行われた回数などからその理由を推定した。
すると白亜紀末期の1800万年を通して、化石を発掘できる可能性がどんどん下がっていることがわかったのだ。
発掘調査を行える土地が少なく、なおかつ化石が埋まっている地層の露出も少なくなっているからだ。
とくに化石を発見するのに重要な露出した岩石地帯が、地殻変動や海の後退によって少なくなっていたことが大きな要因だとされる。
研究チームの中心人物であるUCL地球科学部のクリス・ディーン博士は、「化石の記録をそのまま信じてはいけない」と指摘する。
恐竜が減ったように見えるのは、実際には化石が発見されやすい地層が減っているからだという。
この時期のケラトプス科の恐竜については、生息域が広く、比較的発掘しやすいようだ。おそらくはこの仲間が川から離れた緑豊かな平原を好んだためだろうと考えられている。
これも、記録上「一部の恐竜だけが生き残っていた」ように見える原因のひとつだ。
小惑星衝突さえなければ恐竜は現代も生き残っていた?
UCLのアレッサンドロ・キアレンザ博士は、、ニュースリリース[https://www.ucl.ac.uk/news/2025/apr/dinosaurs-apparent-decline-prior-asteroid-may-be-due-poor-fossil-record]で説明する。
化石の記録をそのまま受け取るならば、恐竜は最終的な絶滅の前からすでに衰退していたと考えられるでしょう
ですが本研究では、それは見かけ上のことで、実際には多様性の変化はなかっただろうことが示されています
むしろプレートの動き・山の隆起・海面の後退など、中生代末期の化石層に地質学的な変化があり、それによって発掘しにくいからである可能性が高いでしょう(アレッサンドロ・キアレンザ博士)
そうしたわけで恐竜は必ずしも絶滅の運命にあったわけではなさそうだ。
隕石さえ地球に衝突しなければ、恐竜は今もなお生き残っていた可能性すらあるのだ。
キアレンザ博士は「あの隕石さえなければ、恐竜はいまでも哺乳類やトカゲ、あるいは彼らの生き残りである鳥たちとともに、今もこの地球で暮らしていたかもしれませんね」と語っている
この研究は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00310-0]』(2025年4月8日付)に掲載された。
References: Cell.com[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00310-0] / Ucl.ac.uk[https://www.ucl.ac.uk/news/2025/apr/dinosaurs-apparent-decline-prior-asteroid-may-be-due-poor-fossil-record]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。