宇宙に連れて行ったマウスの骨に異変。骨密度が低下しスカスカの状態に

宇宙に連れて行ったマウスの骨に異変。骨密度が低下しスカスカの...の画像はこちら >>

 宇宙空間は、私たちの想像以上に体に大きな変化をもたらす。NASAをはじめとする研究チームが、地球で育てた若いマウスを国際宇宙ステーションに送り、無重力環境が骨に与える影響を詳しく調べた。

 37日間の宇宙滞在後、マウスの骨には驚くべき変化が現れた。骨密度の低下が特定の部位で著しくスカスカになっていたのだ。

 だがなぜ宇宙では骨密度が低下するのだろう? 研究によると、それは宇宙を飛び交う放射線の影響ではなく、「骨は使わなければ衰える」という体の宿命が関係しているという。

宇宙空間で骨はどう変化するのか?

 地球上では、私たちの骨は常に重力を受けている。歩く、立つ、運ぶといった日常の動作によって骨には圧力がかかり、それが骨の強さを保つために重要な役割を果たしている。

 しかし、宇宙空間では重力がほとんど働かない「微小重力」という環境になる。これが、骨の健康に大きな影響を及ぼす。

 NASAエイムズ研究センターとアメリカの非営利科学研究機関、ブルーマーブル宇宙科学研究所(BMSIS)は、地球の低軌道を周回している国際宇宙ステーションでマウスを37日間飼育し、宇宙の環境が骨に与える影響を観察した。

 その結果、骨の密度が大きく低下し、スカスカになるという恐ろしい現象が確認されたのだ。まるでスイスチーズのようだ。

 ただしその影響は、どの骨にも一様に働いたわけではなく、部位によってダメージの大きさは異なっていたという。

 たとえば、後ろ足の大腿骨[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%85%BF%E9%AA%A8](だいたいこつ:太ももの骨)では大きな穴がいくつも確認された。とりわけ骨頭(股関節側の丸い部分)や膝関節とつながる両端部分の密度の低下は大きなものだった。

 その一方、背骨の腰の部分(腰椎)はほとんど影響がなかった。

[画像を見る]

骨の劣化は「使わないこと」が原因

 このようなダメージのばらつきは、宇宙で骨の密度が低下する原因を明らかにしている。それは、「体は使わなけば衰える」というものだ。

 地球では、立ったり歩いたりすると、骨には重力による荷重がかかる。この荷重があることで、骨は「使われている」と判断し、骨を丈夫に保とうとする再生の仕組みが働く。

 ところが、地球の低軌道を周回している国際宇宙ステーションの内部は、地上よりもずっと弱い重力しか働かない。

 すると体は「この骨は使わない」と勘違いしてしまい、骨を作る力が弱くなり、骨がスカスカになってしまうのだ。

 地上で宇宙を模した環境で育てられたマウスでも同様の傾向は見られたが、宇宙に行ったマウスの方がはるかに骨の劣化が進んでいた。

 その影響は大きな体重を支えていた骨ほど大きい。私たち人間の場合、腰の骨は上半身の重さを一手に引き受けている。

 ところが4本足で歩くマウスの場合、腰の骨が受ける体重は人間ほどではない。むしろ大腿骨の方が大きな体重を支えている。だから腰の骨より、大腿骨の減少が著しいのだ。

[画像を見る]

宇宙放射線が原因である可能性は?

 地上は地磁気によって放射線から守られているが、国際宇宙ステーションではこのバリアの効果がはるかに弱い。ならば宇宙で骨がスカスカになるのは、放射線のせいではないのだろうか?

 研究チームはその可能性についても検証している。

 1つ考えられるのは、仮に放射線が原因だったとすれば、骨の減少は全身で一様に起きるはずだ。また内側よりも外側の方が大きな影響を受けると予想される。

 ところがマウスで観察されたのは、それとは逆のことだ。骨の密度低下は部位によってまちまちであることはすでに述べた通りだが、内側から劣化が進んでいることも確認されている。

 たとえば、大腿骨の頸部は、国際宇宙ステーションでの滞在37日後、内側の海綿骨髄が大幅に減少していたのに対して、外側の部分はかなりしっかりしていた。

 このことから、骨密度の低下は、放射線よりもむしろ微重力で使用しなかったことの影響が大きいと考えられている。

 骨の減少が放射線のせいでないことは、過去のシミュレーション[https://bioone.org/journals/radiation-research/volume-171/issue-3/RR1463.1/Total-Body-Irradiation-of-Postpubertal-Mice-with-137Cs-Acutely-Compromises/10.1667/RR1463.1.short]研究からも確認できる。

 それによると、マウスで確認されたような骨のダメージが起きるには、国際宇宙ステーションで13年滞在したのに相当する暴露が必要になるはずなのだ。だが、実際にマウスが滞在したのは1ヶ月と数日程度のものだ。

[画像を見る]

宇宙飛行士の骨を守るには筋トレが有効

 なお人間の宇宙飛行士の場合、宇宙に1ヶ月滞在するごとに骨の密度が1%以上低下する。それは地上での骨粗しょう症の進行スピードの10倍にもおよび、半年もすれば10年分に相当する骨が失われることもあるという。

 それほどのダメージになると、一生回復しない恐れもある。

 だからこそ、宇宙飛行士の骨の減少をいかに予防するかが重要となる。そして仮に今回の研究結果が正しく、微重力環境が問題なのだとすれば、食事だけでは不十分だと考えられる。

 大切なのは、骨に地上と同じような負荷をかけることだ。だから宇宙空間でもウェイトリフティングのようなエクササイズが効果的ということになる。

 宇宙に行ったら体が軽くなって楽ができると考えていた人はいるだろうか? 実際には今まで以上に筋トレに励まなければならないことを覚えておこう。

 この研究は『PLOS ONE[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0317307]』(2025年3月26日付)に掲載された。

References: Journals.plos.org[https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0317307]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

編集部おすすめ