
1901年、ギリシャ沖のアンティキティラ島近くで発見された「アンティキティラ島の機械」は、古代に作られた世界初のアナログコンピュータとも言われてきた。
太陽や月、さらには惑星の動きを予測し、日食や月食まで計算できたとされるこの機械は、その複雑で精巧な構造から、現代の科学者たちを長年驚かせてきた。
しかし最近、アルゼンチンの研究チームによる新たなシミュレーションにより、この機械がこれまで考えられていたほど精巧な作りではなく、実は動作からして不安定だった可能性があるという。
アンティキティラの機械は完成された機械ではなく、試作品の段階にあったかもしれないというのだ。
アンティキティラ島の機械に関するこれまでの見解
アンティキティラ島の機械は、1901年、ギリシャのアンティキテラ島沖に沈んでいた難破船の残骸から発見された。
紀元前2世紀末から1世紀初頭頃のものと考えられるこの遺物は、当初その重要性に気付かれることはなかったという。
ところが、やがてその内部にいくつもの歯車で構成された複雑な機構が備わっていることが明らかになると、さまざまな研究者の好奇心を強く掻き立てるようになった。
そうした研究によるならば、アンティキティラ島の機械は、太陰暦を追跡し、太陽・月・惑星の黄道上の位置示し、日食や月食さえ予測できたという。
あまりにも精巧な設計ゆえに、2000年以上も前の設計とはにわかには信じれず、オーパーツの1つに数えられることもある。
だが、もしかしたら、そこまで精巧ではなかったかもしれないというのが、今回の研究の趣旨だ。
最新の研究が示した動作の限界
今回、アルゼンチン、国立ラプラタ大学の研究チームは、アンティキティラの機械の実際の形状や歯車の構造をできる限り忠実に再現したコンピューターシミュレーションを行った。
これまでの復元では単純化されていた「三角形の歯」を正確に反映させたことで、装置の本来の動作状態がより詳しく検証された。
その結果、アンティキティラの機械はおよそ4か月分の天体運行を再現した時点で、歯車の噛み合わせがずれたり、装置全体が停止してしまうことが分かった。
再び使用するためには手動での調整が必要となり、長期間にわたって連続使用することは現実的でなかったという。
このことから、研究チームは「アンティキティラの機械は当初から精密な計算機として設計されたのではなく、教育目的やデモンストレーション用の試作品だった可能性がある」と指摘している。
当時にしては高度な技術が使用されていたのは確か
一方で、この機械の構造には非常に高度な技術が使われている。内部には50個以上の歯車が組み込まれており、それぞれが緻密に連動して太陽や月の運行を再現しようとしている。
もし「実際には動かなかった」とするならば、なぜここまで複雑で精密な設計が施されたのかという新たな疑問が生まれる。
また、現在私たちが観察しているアンティキティラの機械は、2000年以上もの間、海底に沈んでいた影響で、腐食や変形が激しい状態にある。
CTスキャンや3Dモデリング技術によって内部構造の解析は進んでいるが、完全に正確な状態を再現するのは難しい。
研究者たちも「現存するアンティキティラの機械の状態が本来の性能を正しく示していない可能性がある」と認めている。
本当のことはまだわからないが、興味は尽きない
今回の研究は、「アンティキティラの機械は本当に機能していたのか?」という長年の問いに対して、新たな見方を提示した。
もしこの機械が試作品や未完成のモデルだったとすれば、古代ギリシャの科学者たちがどこまで天文学的知識と技術力を持っていたのかを再評価する必要があるだろう。
それでも、アンティキティラの機械が人類史における驚くべき遺物であることは変わりない。その構造は、1000年以上も後の中世ヨーロッパにおける機械式時計よりも進んでいたとも言われている。
今後さらに高精度の解析技術や新たな発見によって、アンティキティラの機械の本当の姿に少しでも近づける日がくるかもしれない。
この研究の未査読版は現在『arXiv[https://arxiv.org/abs/2504.00327]』(2025年4月1日投稿)で閲覧できる。
References: Arxiv.org[https://arxiv.org/abs/2504.00327] / So Did the Antikythera Mechanism Actually Work? New Research Casts Doubt[https://www.ancient-origins.net/artifacts-ancient-technology-news-history-archaeology/antikythera-mechanism-0022033]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。