人為的な干ばつで消えたアラル海の土地が隆起し続け、地球内部に影響を及ぼしている
アラル海 Photo by:iStock

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 中央アジアの「アラル海」は、無謀な人為的灌漑事業によってほとんどの湖水が干上がったことで、周辺の生態系や経済に甚大な被害をおよぼす環境破壊が起きたことから「静かなチェルノブイリ」とも呼ばれている

 新たな研究によると、湖の激変から80年が経過した今、その元湖底が隆起していることが判明したという。

 一体何が起きているのか?

 研究者によれば、環境破壊によって地殻の下にある「マントル」の動きが変化したことと関係しているという。

 それはつまり、私たち地表で暮らしているだけの人間が、驚くべきことに地球奥深くの動きにまで影響を与えているということだ。

 この研究は『Nature Geoscience[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01664-w]』(2025年4月7日付)に掲載された。

人為的活動によって干上がってしまったアラル海

 カザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖「アラル海」は、かつて世界第4位の面積を誇った大きな湖だった。

 ところが1940年代、ソ連(現ロシア)が綿花栽培のための大規模な灌漑を実施し、ダムの建設や河川の流れを変えたことで面積が急速に縮小してしまった。

 現在はほとんどの水が干上がり、ほんの一部だけが変わり果てた姿で残るのみだ。アラル海の激変によって、湖底は砂漠化し、船の墓場となっていった。

 周辺地域への生態・経済的影響は深刻なもので、人類史上最悪の原発事故になぞらえ「静かなチェルノブイリ」と呼ばれることもある。

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80年たった今も、湖底が隆起し続けている謎

北京大学をはじめとする研究チームによれば、過去80年間でアラル海から失われた水は11億トンに達するという。

 これはギザの大ピラミッド150個分の質量に相当する膨大なものだ。それゆえにその下にあった岩盤が、重石が消えたバネのように反発するだろうとは予測されていた。

 ところが意外なことが起きている。水が蒸発して数十年経つというのに、今もなお地面が盛り上がり続けているのだ。

 しかもその範囲はアラル海の元々の範囲よりはるかに広いのである。

 北京大学をはじめとする研究チームは、こうした土地の膨張を人工衛星のリモートセンシング技術によって測定している。

 2016~2020年の測定データによると、アラル海の中心から半径500kmの範囲にわたり、毎年7mmずつ地面が隆起しているという。

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地球深部にまで及ぶ人間活動の影響

 その原因について、研究チームは、アラル海が干上がったことに対する「マントル」の反応だろうと考えている。

 マントルは地下30~70km(海底下では地下7km~)から続く地殻の下にある層だ。粘性を持つ岩石で構成され、ゆっくりと流動するため、地表の岩石や水の重量で物質が押し除けられると、それを補うように流れ込むことがある。

 アラル海は深くはなかったが、面積は広かった。それゆえに、最外層の強固な地殻はその重量を支えきれず、その下にあるより柔らかいマントルへとわずかに沈み込んだ。

 その重みは地下数十~数百kmの深さにまで伝わったと考えられるという。

 ところがアラル海の重量が抜けたことで、まず地殻が反発した。だが、それだけでなく、それまで押し除けられていたその下のマントルまでが流れ込んできた。

 これが今も続く地面の隆起を引き起こしていると研究チームは推測している。

 彼らによると、アラル海地域は、今後も数十年にわたり上昇を続けるだろうという。

 私たち人間は地上にへばりついて生きるちっぽけな存在だ。

 だが今回明らかになった隆起は、ちっぽけなはずの人間の活動が、ときに地球奥深くの動きすら左右しうることを示している。

References: Weak asthenosphere beneath the Eurasian interior inferred from Aral Sea desiccation[https://www.nature.com/articles/s41561-025-01664-w] / Quiet Chernobyl' changed Earth's surface so much the planet's mantle is still moving 80 years later[https://www.livescience.com/planet-earth/geology/quiet-chernobyl-changed-earths-surface-so-much-the-planets-mantle-is-still-moving-80-years-later]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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