
金はどこから来たのか? これは宇宙の複雑な物質の起源にもかかわる、天体物理学上の大きな謎の1つだ。
最新の研究によると、その重要な供給源の1つは宇宙最強の磁石「マグネター」が放出する巨大フレアである可能性が高いという。
20年前の古いデータの分析では、マグネターの巨大フレアは、銀河に存在する鉄より重い元素すべてのうち、およそ10%を供給していると推測されている。
スマホの中に宇宙最大の謎の1つが隠されている
今あなたが手にしているスマホには宇宙の物質の形成に関係する、大いなる謎が秘められている。それはスマホのパーツとして使われる「金」にまつわる謎だ。
金は非常に優れた電気伝導性と腐食耐性を持つ金属で、内部の電子部品に使用されている。
金は原子番号79の重たい元素だ。原子番号は「陽子」の数を表したもので、79とは金の原子核には陽子が79個あることを意味する。
また、この数は元素の種類を決めているものでもあり、たとえば陽子1個しかなければ原子番号1の「水素」、2個だけなら原子番号2の「ヘリウム」といった具合だ。
じつは宇宙の誕生直後にあった元素は、水素やヘリウム、わずかなリチウムといった軽い元素ばかりだった。
その後、恒星の内部で、「鉄」(原子番号26)のような重い元素が作られた。
では金のような鉄より重い元素は、どこで作られ、どのようにして宇宙に広がったのか? これは天体物理学における最大の謎の1つだ。
金は中性子星の衝突で作られた可能性
その手がかりになるのが、原子核を構成するもう1つのパーツ、原子核を構成する無電荷の粒子「中性子」だ。
これは元素の種類ではなく質量に影響するのだが、原子が中性子を取り込むと陽子が増えることもある。
不安定になった核が崩壊し、中性子が陽子に変わるからだ。たとえば金なら、中性子を1つ取り込むと、崩壊して水銀(原子番号80)になる。
じつは主に中性子でできた「中性子星」が衝突すると、そうしたプロセスが大規模に進行する。中性子の捕獲と崩壊が高速に繰り返されるからだ。、これを「r過程[https://ja.wikipedia.org/wiki/R%E9%81%8E%E7%A8%8B]」という。
実際、2017年に中性子星の衝突で発生した重力波が検出されたとき、そこで金やプラチナなどの重元素が生成されていることが確認されている。
だが、中性子星の衝突は、宇宙の歴史のかなり後になってからしか起きないことだ。だからそれだけでは、もっと古い金がどこからやってきたのかうまく説明できない。
そこで着目されたのが、「マグネター」が放出する巨大フレアだ。
マグネターもまた中性子星の仲間で、宇宙史における比較的早い段階から存在していたとされている。最大の特徴は、宇宙最強の磁石とも言われるほど、強力な磁力を持つことだ。
このマグネターではごくまれに、「スタークエイク」という地震のような現象が起きることがある。
その結果、表面に亀裂が走ると「マグネター巨大フレア」と呼ばれる膨大なエネルギーが放出され、中性子星の地殻物質もまた宇宙に放たれる。これが重元素の供給源である可能性があるのだ。
20年前のデータの中に金の存在を示唆するシグナルを発見
そして今回の研究では、2004年12月に観測されたマグネター巨大フレアで、そのことが実際に確認されている。
それはESA(欧州宇宙機関)のガンマ線観測人工衛星「インテグラル」が観測したガンマ線に含まれていたシグナルで、当時誰にも意味がわからなかったものだ。
だが米国コロンビア大学をはじめとする天文学者チームが改めてこの古いデータを分析したところ、重元素がマグネター巨大フレアによって生成され、放出されるときに現れるはずのものとぴったり一致していることが明らかになったのだ。
この結果はその後、NASAの「RHESSI」や「WIND」といった人工衛星のデータによっても裏付けられている。
金のような重い元素の起源に関する謎は、NASAが2027年に打ち上げを予定するガンマ線宇宙望遠鏡「COSI(Compton Spectrometer and Imager)」によって、さらに解明が進むことだろう。
その観測能力で、マグネター巨大フレアなどの高エネルギー現象で生成された個々の元素を観察すれば、元素の起源についてさらに理解が深まると期待されている。
また今回のように過去の観測データの中にも、謎を解く鍵が隠されているかもしれない。
研究の主執筆者アニルドゥ・パテル氏は、「自分のスマホやノートPCの中にある物質が、銀河の歴史で起きた激しい爆発の中でできただなんて、ロマンがありますね」と、NASAのブログ[https://science.nasa.gov/universe/stars/neutron-stars/magnetars/where-does-gold-come-from-nasa-data-has-clues/]で語っている。
この研究は『The Astrophysical Journal Letters[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adc9b0#artAbst]』(2025年4月29日付)に掲載された。
References: Where Does Gold Come From? NASA Data Has Clues[https://science.nasa.gov/universe/stars/neutron-stars/magnetars/where-does-gold-come-from-nasa-data-has-clues/] / Direct Evidence for r-process Nucleosynthesis in Delayed MeV Emission from the SGR 1806–20 Magnetar Giant Flare[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adc9b0#artAbst]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。