AI処理能力が100万倍に、アメリカの研究チームが世界最速の量子トランジスタを開発
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 近い将来AIの性能は100万倍もパワフルになるかもしれない。それをハードウェアの面から支える史上最速の「量子トランジスタ」が開発されたからだ。

 米国アリゾナ大学をはじめとする研究チームが開発した量子トランジスタは、量子のトンネル効果とアト秒単位のレーザーパルスで電子を制御したもの。

 その処理速度は「ペタヘルツ級」。現在のトランジスタの100万倍以上も高速であるという。

 この研究は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-025-59675-5]』(2025年5月9日付)に掲載された。

ハードウェアの限界を突破する量子トランジスタ

 AIの発展がきわめて速いことは、多くの人が実感していることだろう。だがソフトウェアが急速に進化する一方で、ハードウェアの進化は遅れがちだ。

 たとえばスイッチや増幅器の役割を果たす「トランジスタ」は、コンピュータやデジタル電子機器に欠かせないパーツだが、物質や電気抵抗の影響でその処理速度には限界がある。

 こうした制約は、現代のチップの処理速度の向上を停滞させる要因の1つとなっている。

 米国アリゾナ大学をはじめとする研究チームは、従来のシリコンベース・トランジスタのこの問題を克服するべく、量子と光で駆動するトランジスタを開発し、超高速コンピューティングの第一歩を踏み出した。

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量子トンネル効果とアト秒レーザーパルスで制御

 量子トランジスタは、「グラフェン[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3]」に「アト秒単位のレーザーパルス」を照射し、「量子のトンネル効果」を引き起こすことで「電子」の流れをコントロールする。

 トンネル効果とは、本来なら絶対に越えられないはずの壁を、粒子がすり抜けてしまう現象のこと。

 たとえば、通常電子はグラフェンを通り抜けることはできないが、ここに特殊なシリコン層を加え、超緻密なレーザーパルスを当てると魔法が起きる。トンネル効果によって電子がすり抜けるのだ。

 そのレーザーパルスの間隔、すなわちオンとオフが切り替わる間隔は638アト秒(1アト秒 = 10⁻¹⁸秒 = 100京分の1秒)。

それによって実現する処理速度はペタヘルツ級で、現在のトランジスタの100万倍以上も高速ということになる。

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ハードウェアがソフトウェアに追いつく重要性

 アリゾナ大学のモハメド・ハッサン氏は「これこそが世界最速のペタヘルツ量子トランジスタ」とニュースリリース[https://news.arizona.edu/news/u-researchers-developing-worlds-first-petahertz-speed-phototransistor-ambient-conditions]で語る。

 それが重要なのは、AIソフトウェアに比べ遅れがちなハードウェアの進歩を、加速させると期待されるからだ。

 「AIソフトウェアの急速な発展に対し、ハードウェア技術の進歩は緩やかです。しかし量子コンピュータの発見を土台にすれば、情報技術革命に見合うハードウェアを開発できるようになるでしょう」

 この量子トランジスタが優れているもう1つの点は、よくある実験的なデバイスと違い、ごく普通の室内環境でも動作することだ。そのため実用化の可能性も非常に高いのだ。

 現在ハッサン氏らはTech Launch Arizonaと連携し、量子トランジスタの特許出願と商業化を進めているところであるそうだ。

 このままではAIは人間を超えられないという予測もあるが、100万倍パワフルな量子トランジスタはその壁を突破するきっかけになるだろうか?

References: U of A researchers developing world's first petahertz-speed phototransistor in ambient conditions[https://news.arizona.edu/news/u-researchers-developing-worlds-first-petahertz-speed-phototransistor-ambient-conditions] / Light-induced quantum tunnelling current in graphene[https://www.nature.com/articles/s41467-025-59675-5]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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