
ひらめく閃光と轟く轟音をともなう雷は、ときに宇宙でも観測される放射線を放出することがある。「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる放射線バーストだ。
このほど大阪大学をはじめとする研究チームは、冬の雷が多いことで知られている石川県金沢市で、その発生源をピンポイントで特定することに成功した。
雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際の強い電場が”天然の加速器”として働き、放射線バーストが発生していることを突き止めたのだ。
宇宙からも観測される雷から放たれる放射線バースト
雷が放つのは、強烈な光や電波だけではない。ときに放射線が放たれることがある。それが1991年にNASAの人工衛星によって検出された「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる現象だ。
地球ガンマ線フラッシュは、大気中で放射線が一時的に強く放出される放射線バーストの一種で、雷放電と同期しており、継続時間は数十マイクロ秒と極めて短い。
雷雲から宇宙に向かって放出されるものが人工衛星で多く観測されているが、雷雲から地上に向かって下向きに放出されるものも少数ながら観測されている。
なぜ雷によって放射線が作り出されるのか、くわしいメカニズムは今のところ不明だが、雷雲や雷放電の強力な電圧が”天然の加速器”として働き、電子を光速近くまで加速することで、X線やガンマ線といった放射線が放出されている可能性があるという。
今回、大阪大学大学院工学研究科の和田有希氏らをはじめとする研究チームは、地球ガンマ線フラッシュの謎に迫るべく、石川県金沢市でその検出に挑んだ。
金沢で落雷と共に発生した放射線バーストを検出
世界的に雷で有名な場所としては、1分で28回もの落雷があるというベネズエラのカタトゥンボの雷がある。だが北陸地方は世界的に珍しい冬の雷が多発することで知られている。
冬の雷(冬季雷)は夏の雷に比べて、雷雲の高度が低く、雷が地表に近い。また一発のエネルギーが大きいという特徴もある。こうしたことから北陸は世界的にも稀有な雷観測スポットなのである。
この研究で和田氏らが目をつけたのは、金沢市内にある金沢観音堂テレビジョン送信所だ。
2本の鉄塔で構成されたこの送信所では、2022年12月~2023年3月にかけて10件を超える雷放電が確認されている。
そこで研究チームはここに雷を観察する可視光カメラのほか、電波アンテナや放射線センサーを取り付け、そこで起きる現象の観測を試みた。
そして2023年1月30日10時13分29秒、石川県内に雷注意報が発令される中、ついに落雷と地球ガンマ線フラッシュ(放射線バースト)が検出されたのである。
空と地上からの放電路の衝突直前、放射線がバーストする
まず高度2.5km付近からマイナスの電荷を帯びた放電路(その先端を「負極性リーダー」という)が下降。さらに地上の送信所からはプラスの電荷を帯びた放電路(「正極性リーダー」)が上昇した。
雷雲と鉄塔から伸びた放電路は、高度0.9 km付近で衝突し、落雷にいたった。
地球ガンマ線フラッシュが検出されたのは、この落雷のほんのわずか30マイクロ秒(10万分の3秒)前のこと。
これを踏まえると、雷の放射線は、2本のリーダーが衝突する直前、その間に形成された強力な電場によって発生しただろうことがわかる。
ちなみに雷から発生する放射線ともなれば、さぞや破壊的なものかと思いきや、最大でも胸部レントゲン検査1回分程度のものだろうという。
そのため、落雷による放射線の健康被害は心配しなくても大丈夫そうだ。
発生メカニズムの解明に期待
今回の研究によって、地球ガンマ線フラッシュのより具体的な発生源が特定された。
だが原子が充満する濃密な大気の中で電子が光速近くまで加速することは、一般に困難とされている。
したがって今後は、そうした条件にもかかわらず放射線が発生するメカニズムの特定に期待がかかる。
研究チームは今後、観測ネットワークを広げ、雷から地球ガンマ線フラッシュが発生する頻度や、リーダーの衝突以外でも放射線が発生するのか解明を試みるとのことだ。
この研究は『Science Advances[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ads6906]』(2025年5月21日付)に掲載された。
References: Downward terrestrial gamma-ray flash associated with collision of lightning leaders[https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ads6906] / 稲妻の衝突が作り出す放射線バースト[https://www.jaea.go.jp/02/press2025/p25052201/]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。