第一次世界大戦時に沈没した米潜水艦、最先端深海探査技術で鮮明に蘇る
CREDIT: Image by Zoe Daheron, ©Woods Hole Oceanographic Institution.

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 最先端の深海探査技術を用いた調査により、第一次世界大戦中に沈没したアメリカ海軍の潜水艦の鮮明な映像が初めて公開された。

 この潜水艦は、1917年に他の潜水艦と衝突しカリフォルニア州サンディエゴ沖の海の底に沈んでいた「USS F‑1」だ。

 7度にわたる潜水と最新の深海イメージング技術により、水深約400 mの海底に眠るUSS F‑1が、108年の時を超えて鮮明によみがえったのだ。

 その姿とともに、この潜水艦の歴史を見ていこう。

米海軍の潜水艦USS F‑1の高解像度画像が公開される

 このたび公開された潜水艦USS F‑1[https://ja.wikipedia.org/wiki/F-1_(%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%A6)]の高解像度画像と映像は、2025年2月24日から3月4日にかけ行われた共同研究探査で撮影されたもの。

 アメリカ・マサチューセッツ州を拠点とするウッズホール海洋研究所(WHOI)と、米海軍、国立科学財団(NSF)、海軍歴史遺産司令部(NHHC)など、複数の機関の協力により実現したものだ。

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 撮影にあたり、研究者らは有人探査機船(HOV)「アルビン」や自律型潜水機(AUV)「セントリー」といった高度な深海撮影ツールを使用。

 水深400mより深い海底に横たわる潜水艦USS F‑1の位置特定に成功した。

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1917年、訓練中の衝突事故で沈んだUSS F‑1

 USS F‑1は、1901年に建造され、1912年に就航した初期の潜水艦だ。乗員22名、排水量330トン、大きさはおよそ全長43m、全幅4.7m、最大速力14ノット(25km/h)、魚雷発射管4基を備えたこの艦は、米海軍の新たな試みとして当時注目されていた。

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 ところが、1917年12月17日、海中戦術開発に向けた訓練中、同じF級潜水艦USS F‑3とサンディエゴ沖で衝突し、まもなく海中へ沈没した。

 この事故の衝撃は甚大で、記録によれば、沈没までの時間はたった10秒。19名の乗組員が命を落とす、という衝撃的かつ悲惨なものだった。

 こうした事故は、激動の戦時下での新技術導入のリスクと、その限界を如実に物語る実例ともいえる。

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亡き船員たちを悼む追悼式典も

 この探査で得た数々の新画像の提供に先立ち「アルビン」チームの上級パイロット兼管理者で、今回の記録を手伝ったWHOIのブルース・ストリックロット氏は、高度な海洋技術とシンプルなチームワークが大きな役割を果たした、としてこう語る。

沈没船を特定し、潜水の安全も判断した後、これまで見たことのない視点からこの潜水艦をとらえることができました。米海軍の退役軍人として、ONR とNHHCの同僚とともにアルビンを操縦し、F-1を訪問できたことは大変光栄でした

 またチームは、潜水艦が横たわる場所の真上にある調査船アトランティスで19回鐘を鳴らし、亡くなった船員たちを悼む追悼式典を行った。

歴史的に重要な沈没船を訪れ、勇敢なアメリカ人水兵たちの犠牲を称えることは、信じられないほど興奮し、謙虚になる経験でした (アルビンのもう一人のパイロット、NHHC の水中考古学者ブラッド・クルーガー氏)

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第1次世界大戦下の軍事技術史に刻まれる潜水艦

 初期の軍用潜水艦は、1770年代に実戦に登場した手動ポンプ式の「タートル潜水艇[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%87]」から始まった。

 その頃はこうした船が敵艦への奇襲攻撃にも運用されると期待されたが、技術的な限界により成功率は低かったという。

 さらに、南北戦争時代には潜水艇「 H・L・ハンリー」が、初の敵船撃沈に成功したものの、乗組員全員が犠牲となるという悲劇もあった。

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 こうした試行錯誤と失敗の積み重ねが、第二次世界大戦期の技術進化、冷戦時代と原子力潜水艦の登場、そして現代の先端技術応用など技術の発展や改良の原点となり、のちの沿岸防衛や遠洋作戦へと進化していく土台を築いた。

 このたび注目されたUSS F‑1もまた、第1次世界大戦下の軍事技術史に刻まれる運用型潜水艦だ。

 その頃も技術的成熟度が低く、構造上の脆弱性などからさまざまなリスクを抱えたままの運用だったことは想像に難くない。

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100年以上過去の悲劇を先端技術で鮮明に

 今回の調査では、マルチビームソナーや高解像度カメラなどの高度な画像ツールにより、 3D 写真測量モデルの作成が進められた。なおこの方法を使えば、周囲の海洋生物のサイズまで明らかにできるという。

 今回得られた復元図は、教育的・歴史的価値のみならず、将来の海洋調査ミッションの重要な訓練資産としても役立つと期待されている。

 共同リーダーでNDSFの主任科学者のアンナ・ミシェル氏は、100年以上前に起こった過去の悲劇を、飛躍的な進歩を遂げた現代の先端技術で鮮明に記録するという今回のプロジェクトを振り返ってこう語る。

素晴らしい画像を共有するものでしたが、こうした遺跡にふさわしい敬意を払いつつ、慎重かつ計画的に実施しました

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1950年代の軍用機も記録

 また今回チームは、この潜水艦のそばに眠る、軍用機の調査もあわせて行ったとのこと。メディアによると、この機はアメリカ海軍などで運用された雷撃機TBFアヴェンジャー(GrummanTBF Avenger )[https://ja.wikipedia.org/wiki/TBF_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)]で、1950年に墜落したものの乗員は無事だったという。

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 これらの記録により、サンディエゴ沖の海底は、第一次世界大戦と戦後期という異なる時代の軍事遺産が重なり合う、歴史的意義の高い場所であることも明らかとなった。

 現代の精密な3D再現が可能になった近年、これまで調査が途絶えていたこうした遺物も、当時の悲劇や技術的挑戦を後世に伝える貴重な証拠として再び評価されてるようだ。

 これから増えそうな海に沈んださまざまな遺跡の再現モデルも気になるが、ついでにやたら巨大な海の生物とかも一緒に発見されそうでどっちも気になるな。

References: Deep ocean technology offers never before seen images of lost WWI submarine[https://www.whoi.edu/press-room/news-release/wwi-sub/] / 108-year-old submarine wreck seen in stunning detail in new footage[https://www.popsci.com/technology/submarine-wreck-footage/]

本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。

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