ホホジロザメが水族館にいない理由
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 水族館に行くと、海水や淡水に棲むさまざまな生き物たちが展示され、我々を楽しませてくれる。

 しかし映画『ジョーズ』で一躍有名になったあの「ホホジロザメ」を、水族館で見たことがある人はほとんどいないのではないだろうか。

 巨大だから、ということなら、ジンベイザメが飼育されている水族館なら複数ある。なのになぜ、ホホジロザメに水族館で会うことができないのだろうか?

そもそもホホジロザメとはどんなサメ?

 ホホジロザメ(学名:Carcharodon carcharias)は、世界中の温帯・亜熱帯の海に生息する大型のサメで、全長は最大で6mを超えることもある巨大なサメだ。

 主にアザラシやイルカなどの海洋哺乳類を好んで捕食し、シャチと並んで海の食物連鎖の頂点に位置する存在と言えるだろう。

 映画『ジョーズ』の大ヒットで、一躍「知らない人はいない」存在となったホホジロザメ。サメと言えばこの顔を思い浮かべる人も多いと思う。

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 だが、このホホジロザメを実際に見てみたいと思っても、水族館で出会える可能性はほぼ皆無なのが現状だ。

 ではなぜ、ホホジロザメは水族館で飼育・展示されないのか? 

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常に泳ぎ続けなければならないサメのサガ

 ホホジロザメは口を開けたままで泳ぎながら海水を取り込み、呼吸孔から吐き出す際にエラで酸素を取り込んで呼吸を行っている。

 そのため、決して止まることなく泳ぎ続けなければならず、狭い水槽ではその動きを維持することが難しいのだ。

 彼らは繁殖のため、数千kmもの距離を移動することがある。ニコール[https://www.sharkcagediving.net/shark-blog/item/a-shark-called-nicole]という名のメスのサメは、 わずか9か月でアフリカからオーストラリアまで、往復で約2万km以上を移動した記録がある。

 自然界では広大な障害物のない海洋を自由に泳ぎ回っているため、水族館の限られた空間では、彼らの本来の行動範囲を再現するのは不可能に近い。

 これまでにも多くの水族館がホホジロザメの飼育に挑戦してきたが、進路を変えようとして水槽の壁にぶつかって怪我をしたり、餌を食べなかったりといったケースが多く報告されている。

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アメリカでは最長198日間の飼育例も

 とは言え、過去の飼育例がないわけではない。だがそのどれも、ホホジロザメが天寿を全うするまで飼育し続けられた例はない。

 カリフォルニア州のモントレーベイ水族館では、2004年から2011年にかけて、6匹のホホジロザメの飼育に成功した。

 同水族館には高さが約10m、容量が約3,800立方mという広大な水槽がある。さらに搬入のための特別な輸送手段を用いて、ホホジロザメのストレスを最小限に抑える工夫を凝らしていた。

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 だが、同水族館で飼育していたホホジロザメは、どれも小さな子どもだった。成長するにつれ、水槽での飼育にはどうしても限界が発生していく。

 障害物のない海の中を、口を開けたまま真っすぐに泳ぎ続けることが、ホホジロザメが生きるためには欠かせない。しかし水族館の限られた敷地の中で、そんな環境を用意することはできない。

 さらに子どものホホジロザメは主に魚を食べているが、成長すると海洋性哺乳類に食性が変わっていく。

 ストレスを感じたホホジロザメは、水槽内にいる他のサメを襲いはじめ、餌を食べなくなったり水槽の壁にぶつかっでケガをしたりと、衰弱し始めるのだ。

 そのためモントレーベイ水族館では、最短で11日、最長で198日間という飼育記録を作った後、彼らを放流せざるを得なかった。

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日本での飼育例はわずか3日間

 2016年の初め、沖縄の美ら海水族館に、漁師の網に捕まったホホジロザメが保護されたことがあった。

 体長約3.5mの成体で、2日目までは水槽の中を遊泳していたそうだが、3日目の早朝に突然体勢を崩し、そのまま死んでしまったという。

 これは、成体のホホジロザメを展示した世界初の例とされているが、死因については詳しいことは判明していない。

 水槽の容量の問題であれば、美ら海水族館の「黒潮の海」の水槽は、モントレーベイ水族館の倍近い7,500立方mある。

 だが当時、このホホジロザメが入れられた「危険ザメの海」水槽は、容量がわずか800立方mしかないそうなので、環境的にも難しかったのではないだろうか。

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ホホジロザメの長期的な飼育は不可能に近い

 その他アメリカやオーストラリアの水族館でも、かつてホホジロザメの飼育が試みられたが、いずれも数日から数週間で死亡する結果となっている。

 こういった例からも、水槽内でのホホジロザメの長期飼育は非常に難しいことがわかるのではないだろうか。

 ホホジロザメの存在は、海の生態系にとっても非常に重要だ。我々人間は彼らの観察と研究を通じ、その生態や行動を理解して、共存する道を模索していく必要がある。

 だが近年は、シャチやイルカなどの海洋哺乳類を含め、大型の海洋生物を狭い水槽で飼育することへの反発も大きくなっている。

 今後は無理に水族館で飼育するのではなく、自然環境での観察や研究を通じて、彼らの生態を学ぶことが求められることになるだろう。

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References: Why no aquarium has a great white shark[https://www.youtube.com/watch?v=QMbHLF_zwjs]

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

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