
地球を離れて47年以上。今も星々のあいだを、ひとりぼっちで旅を続けるNASAの宇宙探査機ボイジャー1号に、ひとつの贈り物が届けられた。
欧州宇宙機関(ESA)が、映画『2001年宇宙の旅』で印象的に使われたクラシックの名曲『美しく青きドナウ』を送信したのだ。
この曲はボイジャーに搭載されたゴールデンレコードには含まれていなかった。ESAはその“抜け落ちた一曲”を、半世紀近い時を経て、ようやくボイジャー1号に届けたのである。
宇宙の象徴となったクラシック曲「美しく青きドナウ」
『美しく青きドナウ』は、1866年にオーストリアの作曲家ヨハン・シュトラウス2世によって作られた有名なワルツだ。
特に1968年の映画『2001年宇宙の旅』の冒頭シーンで使われたことで、宇宙を象徴する音楽として世界的に知られるようになった。
宇宙船が地球を周回しながらゆっくりと舞うシーンにこの曲が重なり、観客に強い印象を残した。以降、この曲は“非公式な宇宙のテーマ曲”とも呼ばれ、SF作品やアニメなどでもたびたび使われてきた。
ボイジャー1号に抜け落ちた1曲を届ける
1977年8月20日、NASAは宇宙探査機ボイジャー2号を打ち上げ、翌月の1977年9月5日にボイジャー1号を打ち上げた。
両探査機には「ゴールデンレコード」と呼ばれる金属製のディスクが搭載され、そこには人類の文化を象徴する音楽や音声、画像などが収録された。
これは、いつか地球外生命体や未来の人類が見つけたときのための「地球からのメッセージ」として用意されたものだ。
しかし、『美しく青きドナウ』は、そのゴールデンレコードには選ばれなかった。
欧州宇宙機関(ESA)はこの“文化的な空白”を埋めたいと、シュトラウスのワルツ『美しく青きドナウ』を改めて宇宙に届けたいと思った。
それは、ボイジャーに込められた人類のメッセージを、より完全なものにするための試みでもある。
ウィーン交響楽団が奏でた音を、ボイジャー1号に送信
ボイジャーに届ける曲の演奏を担当したのは、オーストリアの名門・ウィーン交響楽団だ。
このために新たに録音された音源は、2025年5月31日、スペインにあるESAのセブレロス地上局から宇宙へと送信された。
電波に変換された音楽は、光の速さで宇宙へと進み、地球からおよそ249億km離れたボイジャー1号の方向へと向かった。
信号がその位置に届くまでにかかる時間は約23時間。音楽は探査機の通信機器によって再生されるわけではないが、それでもこの送信には象徴的な意味が込められている。
これは、地球から遠く離れた宇宙をひとりで旅し続けるボイジャー1号を励ますために届けられた贈り物である。
それと同時に、人類がつくった芸術として、宇宙のさらに彼方へと送り出された文化的なメッセージでもある。
この試みは、ヨハン・シュトラウス2世の生誕200周年と、ESAの設立50周年を記念して行われたものだ。
ウィーン交響楽団のヤン・ナスト氏は、「音楽は言葉の壁を越えて、希望や喜びを伝える力がある」と語っている。
ボイジャー1号は、地球から最も遠くにいる人類の人工物として、今もなお星間空間を飛び続けている。その孤独な旅の途中で受け取ったこの音楽は、やがて宇宙のさらに彼方へと進み続けることだろう。
いつか誰かがこの音を“聴く”ときが来るかもしれない。そのときボイジャー1号は、果てしない旅の途中からこう語りかけてくれるかもしれない。
「これは私のふるさと、地球から届いた音楽です。どうか耳を傾けてください」と。
References: Vienna calling: Strauss's 'Blue Danube' waltzes into outer space[https://phys.org/news/2025-06-vienna-strauss-blue-danube-waltzes.html]
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。