
食欲も繁殖力も旺盛で、ときに在来種のワニでさえ太刀打ちできない外来種ビルマニシキヘビ。その侵略の拠点アメリカ・フロリダ州では生態系の乱れまで生じている。
しかし、すべての在来種が黙って侵略を許しているわけではない。
ある野生動物が、自らの縄張りを命がけで守り、ビルマニシキヘビに対抗できる力を持っていることが明らかとなった。
それは、在来種のボブキャット(アメリカオオヤマネコ)先輩だ。
首を切られたニシキヘビの死骸が残された現場にボブキャットが戻ってくる様子がトレイルカメラに記録されていたのだ。
この出来事は、侵略的外来種によって打撃を受けた生態系のバランスが、回復しつつある兆候として注目されている。
ビルマニシキヘビが侵略的外来種になった経緯
ビルマニシキヘビ(Python bivittatus)は、元々は東南アジアに生息する大型の蛇である。野生では体長が5mにもなり、中には6mを超えるものもいる。
1990年代から2000年代初頭にかけて、ペットとして人気が出たため、アメリカに大量のビルマニシキヘビが輸入された。
だがその中には逃げ出したり、飼いきれなくなった飼い主に捨てられたりして、野生化した個体も少なくなかった。
フロリダの環境に適応した彼らは、オポッサムやアライグマ、鹿といった在来種の哺乳類や鳥類、さらにはワニまでも捕食することで、現地の生態系に大きな影響を及ぼしてきた。
特にエバーグレーズ国立公園では、ビルマニシキヘビの影響で多くの在来種が減少している。
生態系が乱れ、絶滅した在来種も
1997~2012年の15年間で、エバーグレーズ南部ではアライグマの個体数は99.3%、オポッサムは98.9%、ボブキャットは87.5%も減少したという。
そしてヒメヌマチウサギやワタオウサギ、キツネは事実上姿を消してしまった。
もちろん開発などで生息地が減ったこともあるが、大きな要因はビルマニシキヘビによって捕食されたためと考えられている。
下の動画は、ビルマニシキヘビが鹿を一飲みにしているところ。この個体は体長が約4.5、体重は約52kgのメスだそうだ。
発信機を活用した駆除作戦
そこで現地の南西フロリダ自然保護協会[https://conservancy.org/]の生物学者たちは、「スカウトスネーク(偵察蛇)」というプロジェクトを立ち上げ、彼らの生態の調査を開始した。
ビルマニシキヘビのメスは、春先の繁殖シーズンになると巣穴を掘り、最大で100個もの卵を産む。
研究者らは40匹以上の個体に発信機のついた首輪を装着して、メスのもとへと案内させようと試みた。
そこで発見されたメスは、これ以上卵を産まないように、安楽死させられることになる。
追跡中のヘビの死骸を発見
2025年5月、研究者たちは発信器を装着したビルマニシキヘビのうち、「ロキ」という名前をつけられた個体を追跡していた。
メスのもとへと導いてくれることを期待した彼らだったが、ロキのもとへ辿り着いたとき、衝撃を隠せなかった。
首輪の信号を辿った場所で彼らが見たのは、頭部と首を噛みちぎられ、松葉の下に埋められているロキの死骸だったのだ。
ボブキャットが立ち向かい、勝利していた
ロキの死骸が土に埋められていたのは、捕食者が獲物の食べ残しを土に埋め、隠したのではないかと推測された。
現場には足跡などの明確な証拠はなかったが、「犯人」が食事に戻って来る可能性を考え、周辺にトレイルカメラが設置された。
そしてその翌日、カメラに捉えられたのはなんと、ビルマニシキヘビよりもはるかに小さいボブキャットの姿だ。
ボブキャットは体重約11kg、対するヘビは約24kg、全長約4mもある。
にもかかわらず、ボブキャットは勝利をおさめ、カメラにはヘビの死骸の元に何度も戻ってくるボブキャットの姿が映っていたのだ。
自分たちの居場所を守れ!在来捕食者たちが反撃ののろし
ロキはボブキャットよりはるかに大きく一飲みにされてもおかしくない。
この出来事は、在来種が侵略的外来種に立ち向かい始めた兆候だ。
これは長年にわたり被害を受けてきた生態系が、自らバランスを取り戻すプロセスとも考えられるだろう。
2021年には、ボブキャットがビルマニシキヘビの巣を襲撃し、卵を食べている様子がカメラに捉えられたことがあるそうだ。
ボブキャットだけではない。フロリダパンサー(ピューマの亜種)やアメリカグマ、さらには一部の猛禽類も、ビルマニシキヘビを獲物として狩り始めたという。
当然のことながら、時間の経過とともに生態系のバランスが回復しつつつある兆しが見え始めました。在来種の捕食者たちは反撃しているのです。
ビルマニシキヘビを新たな獲物として認識し、その弱点を攻撃できるようになってきたようです
賞金を懸けた駆除イベントを開催
2024年11月以降、バルトシェク氏のチームだけで、重量にして3t以上のビルマニシキヘビを駆除したという。2025年に入ってからは、5月までの間に約130匹の駆除に成功したそうだ。
また、ビルマニシキヘビの個体数を管理するため、フロリダ州では「フロリダ・パイソン・チャレンジ[https://flpythonchallenge.org/]」という年次イベントが開催されている。
このイベントは2013年から行われており、外来種のビルマニシキヘビをエバーグレーズから駆除するためにに創設されたものである。
アメリカ国内はもちろん、世界各地から集まった参加者が協力してヘビルマニシキヘビを駆除し、生態系の保全に貢献している。
参加者はトレーニングを受けた上で、捕獲したビルマニシキヘビを人道的に安楽死させるところまで実行しなければならない(送信機のついた個体は除く)。
期間中に最も多くのビルマニシキヘビを捕獲した参加者には、1万ドル(約145万円)の賞金が贈られる。
南フロリダ水管理局の生物学者、マイケル・カークランド氏は、このイベントについてこのように説明する。
このチャレンジは、この地域からできるだけ多くのビルマニシキヘビを駆除することを目的としています。
人間による捜索と駆除が、現時点では最も効率的かつ効果的な手段なのです
州を挙げての駆除作戦が続く
また、フロリダ州魚類・野生生物保存委員会(FWC)は指定された管轄区域において、外来爬虫類の駆除を許可しており、個人でも狩猟免許や当局の許可なく、ビルマニシキヘビの駆除が行える。
さらに私有地でも土地所有者の許可があれば、同様の駆除活動が行えるそうだ。自分でやるのはちょっと…という人は、当局のホットラインに連絡すれば対応してくれるとのこと。
フロリダではプロ・アマ問わず、全力を挙げてこの侵略的外来生物の駆除に取り組んでいるようだ。
そんな中で起こったボブキャットによるビルマニシキヘビの捕食は、自然の自己修復機能が働き始めた可能性を示している。
しかし、ビルマニシキヘビの繁殖力や適応力を考慮すると、完全な制御には至っているとは言い難い。
今後も引き続き、在来種の保護と外来種の管理を両立させる、地道な取り組みが求められていくだろう。
ちなみに、今年の「フロリダ・パイソン・チャレンジ」は、7月11日から20日までの間開催されるそうだ。興味のある人は参加[https://flpythonchallenge.org/participate/competition/registration/]してみてはどうだろうか。
References: First Time An Invasive Python is Killed by Florida Bobcat–A Sign of Nature ‘Fighting Back’ Against the Snakes[https://www.goodnewsnetwork.org/first-time-an-invasive-python-is-killed-by-florida-bobcat-a-sign-of-nature-fighting-back-against-the-snakes/] / Apex predator found dead; Is the Everglades fighting back against Burmese pythons?[https://www.gulfcoastnewsnow.com/article/apex-predator-found-dead-everglades-burmese-python/64830135]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。