
2017年の春、アメリカ、ケンタッキー州にあるバーボンウイスキー蒸留所に、どこからともなく現れたのは4匹の小さな茶トラ猫だった。
蒸留所の経営者が敷地内に藁(わら)を撒いていたところ、子猫たちは藁の束の一つの中に隠れていたという。
蒸留所のスタッフは総出で母親を探し回ったがどこにも見当たらなかった。
蒸留所では「そろそろ猫を飼いたいね」と話していたタイミングで現れたことから、彼らは子猫たちを引き取ることをすぐに決めた。
なんとこの4匹、茶トラでは珍しい全員メスの姉妹だったのだ。
干し草の束の後ろに隠れていた4匹の茶トラの子猫
さかのぼること8年前の2017年、ケンタッキー州のバーボンウイスキーをメインに製造している「ジェプサ・クリード蒸留所[https://jepthacreed.com/]」で、共同経営者のオータム・ネザリーさんは敷地内に藁(わら)を広げて、干し草の束を拾い上げていたとき、その裏に隠れていた4匹の小さな子猫を発見した。
スタッフたちはすぐに蒸留所の敷地を探し回り、母猫を見つけようとしたが、どこにも姿はなかった。
猫たちはまだ目が開いたばかりで、明らかに空腹状態にあり、助けてあげなければ生き延びるのは困難な状態だった。
ちょうど猫を飼おうとしていた時に現れた子猫たち
だが偶然なのか必然なのか、このとき蒸留所では猫を飼おうという話が持ち上がっていたのだ。
ちょうどそのタイミングで現れた4匹の茶トラ柄の子猫たちは、運命的な存在として蒸留所の猫として受け入れられた。
猫たちには、蒸留所で扱っている原料にちなんで、それぞれ「モルト」「ウィート」「バーリー」「ライ」という名前がつけられた。
猫たちはまだ生まれたばかりで哺乳瓶による授乳が必要な時期だったため、スタッフ全員が交代でミルクを与え、手厚く育てた。
月日が経ち、4匹は健康な成猫へと成長した。
2025年、8歳となった4匹の猫は現在、蒸留所内に設けられた猫専用のスペースで過ごしながら、スタッフや来場者と日々ふれあっている。
日中はお昼寝していることがほとんどだが、人間が大好きで、蒸留所のツアー客がくると目を覚まして駆け寄ってくるという。
人に撫でられたり注目を集めるのが大好きなのだそうだ。
夜は警備員として活躍
日中は率先して接客係を行っている猫たちだが、夜になると蒸留所内を巡回し、ネズミなどの小動物の侵入を防ぐ警備も担当している。
こうした行動は、蒸留所で働く人々にとっても安心材料となっている。
実際に蒸留所では昔からネズミなどの害獣対策に「ウイスキーキャット」として猫が飼われていた経緯がある。
ジェプサ・クリード蒸留所の猫たちがウイスキーの樽の上を歩き回っている様子はTikTokで話題となっている。
茶トラ猫には珍しく4匹ともメス
猫の毛色は遺伝によって決まり、特に茶トラの毛はX染色体上にある「オレンジ遺伝子」によって決まる。この遺伝子は、X染色体を1本しか持たないオス(XY)では、1つの遺伝子だけで毛色が決定されやすいため、茶トラの毛色が出やすい。
一方で、X染色体を2本持つメス(XX)は、両方の染色体にオレンジ遺伝子がなければ茶トラにはならない。
このため、茶トラ猫の約80%はオスであり、メスは全体の20%ほどしか存在しないとされている。
ジェプサ・クリード蒸留所で保護された4匹の子猫は、全員が茶トラのメスという極めて珍しい存在だった。
2017年に出会った4姉妹の猫たちは2025年時点で8歳となった。今では蒸留所にとって欠かせない存在だ。
彼女たちは看板猫として人々を迎え、そして時には蒸留所を守る警備員として働いている。
蒸留所のスタッフたちは、8年前に彼女たちが現れたことを「奇跡の幸運」と語っている。