サメが巨大なマンタに体をこすりつけ、お掃除ブラシとして利用していた!
マンタに近づき体をこすりつけようとするサメ image credit:<em>Vinesky et al. 2025</em>

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 多くの動物は、体を清潔に保ち、寄生虫や古い皮膚細胞を取り除くための工夫をしている。それは海の生き物たちも同様だ。

 海の掃除屋と呼ばれる小魚たちがいる場所(クリーニングステーション)に行って体をきれいにしてもらったり、コバンザメが体にくっつくのを許し、寄生虫を取り除いてもらったりする。

 だが東太平洋に浮かぶメキシコ領レヴィジャヒヘド諸島の海でダイバーらは驚くべき光景を目にした。

 なんと、ガラパゴスザメが巨大なマンタ(オニイトマキエイ)に体をこすりつけ、移動する清掃道具のように使用していたのだ。

 この行動が記録されたのは今回が初めてで、海洋生物の柔軟な適応行動を示す新たな証拠となった。

サメがマンタに体をこすりつけ、掃除用具として使っていた

 これまで知られていない行動が観察されたのは、2024年12月と2025年2月、メキシコ領レヴィジャヒヘド諸島の「ザ・キャニオン」と「カボ・ピアース」という2つのダイビングポイントだ。

 これらの場所は生物多様性が豊富な海域として知られ、多くの大型海洋生物が集まることで知られている。

 海洋研究団体「Pelagios Kakunjá(ペラギオス・カクンハ)」を中心とする研究チームは、ここでダイバーが撮影したビデオ映像を解析し、ガラパゴスザメ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%83%91%E3%82%B4%E3%82%B9%E3%82%B6%E3%83%A1]がマンタ(オニイトマキエイ)に体をこすりつけている様子を3回にわたり確認した。

 ちなみにガラパゴスザメは、成体で体長3.0m程度、重さは最大100kg前後。一方マンタの成体は翼幅(胸ビレの端から端)が8m前後、重さは最大で3トンに達するほど巨大だ。

 いずれのケースでも、サメはマンタの腹部や口元に向かってゆっくりと接近し、接触直前に加速して体を擦りつけるように動いていた。

 この行動は、いずれも岩場やサンゴ礁が広がる「クリーニングステーション」として知られる海中の“掃除スポット”の近くで起こっていた。

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海のクリーニングステーションとは?

 海のクリーニングステーションとは、寄生虫や古くなった皮膚細胞を取り除きたい魚たちが集まる場所のことだ。

 ここには、ホンソメワケベラやハゼの仲間のクリーナーゴビー(Elacatinus)、オトヒメエビ[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%88%E3%83%92%E3%83%A1%E3%82%A8%E3%83%93]などの「掃除役」が待ち構えており、大型魚たちは順番を守ってこのお掃除サービスを受ける。

 掃除される側は体を清潔に保てるし、掃除する側は寄生虫や皮膚片をエサとして得られるという“持ちつ持たれつ”の関係だ。

このような関係は「掃除共生(cleaning symbiosis)[https://en.wikipedia.org/wiki/Cleaning_symbiosis]」と呼ばれる。

 ガラパゴスザメは通常ここを利用するのだが、今回のケースでは、いつもクリーニングステーションにいるはずの掃除魚たちの姿が一匹もいなかった。

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マンタのサメに対する反応は?

 今回記録されたのは、3体の異なるマンタと、3匹の異なるガラパゴスザメによる3つの別々の接触事例だ。

 それぞれのケースで、サメの年齢やサイズが異なっており、マンタの反応にも明確な違いが見られた。

 2つのケースでは、まだ若いサメがマンタの体にこすりつけていた。このとき、マンタはいずれも大きな動きを見せず、体を静かに保ったまま受け入れているように見えた。

 一方、3つ目のケースでは成体のサメがマンタに接近し、体をこすりつけようとしたところで、マンタは明確な拒否反応を示した。

 映像には、マンタが3回の後方宙返りを行い、急な方向転換や加速によってサメを避けようとする様子が記録されていた。

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 こうした回避行動の背景には、サメによる捕食への警戒心があると考えられている。

 ガラパゴスザメは若いマンタを襲うこともあり、過去に襲われた経験を持つ個体や、接近してきたサメのサイズから危険を察知した個体が、反射的に回避した可能性がある。

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マンタにメリットはあるのか?

 サメに体をこすりつけられることでマンタに何らかの利益はあるのだろうか?

 掃除魚たちとは双方に利益があるからこそ成り立つ関係だ。

 だがこの行動は、サメが一方的にマンタを利用しているだけで、マンタには何の利益もない。

 むしろサメの接触によって、病原体や寄生虫が移るリスクすらあると研究チームは指摘している。

 通常、マンタは掃除魚に体を掃除してもらう側だ。

この海域ではクラリオンエンゼルフィッシュ(Holacanthus clarionensis)[https://en.wikipedia.org/wiki/Clarion_angelfish]がその役割を担っている。

 ところが今回は、マンタ自身が「掃除される道具」として使われていたのだ。

サメの柔軟な適応行動

 研究チームは、普段利用するクリーニングステーションに掃除魚たちがいなかったため、サメは、巨大なエチケットブラシ代わりに、マンタを利用するようになったのではないかと考えている。

 清掃魚たちはどこへ消えたのか?

 その要因として、研究チームは観光やスキューバダイビングなどの人為的な要因が掃除魚の行動や生息に影響を及ぼしている可能性を指摘している。

 今回の観察記録は、海洋生物の柔軟な適応力を示すだけでなく、海の生態系のバランスがいかに繊細であるかを物語るものである。

 この論文は査読前のプレプリントサーバー『bioRxiv』[https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.04.04.647128v1.full](2025年4月10日付)で公開されている。

References: Doi.org[https://doi.org/10.1101/2025.04.04.647128] / First-Ever Documented Reports Of Galapagos Sharks Using Manta Rays As Mobile Cleaning Stations[https://www.iflscience.com/first-ever-documented-reports-of-galapagos-sharks-using-manta-rays-as-mobile-cleaning-stations-79563]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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