ヒヒが一列に並んで歩く理由。すべては友情のためだった
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 アフリカに生息する大型の霊長類、ヒヒは社会性が非常に強く、数十~数百頭の群れで生活しており、群れで移動する時、一直線に並んで歩くことが知られている。いったいなぜなんだろう?

 これまで、ヒヒが列で移動するのは、外敵から身を守ったり、限られた資源を効率的に得るための生存戦略などいくつかの説が考えられてきたが、そうではなかった。

 イギリスの新たな研究によると、実際には「仲の良い友達と一緒に歩きたい」という単純な理由が行動の背景にあるという。

 つまり、列をつくるのは生存戦略ではなく、社会的な絆の副産物だったのだ。

ヒヒたちはなぜ列をつくるのか?

 今回、イギリススウォンジー大学の動物学者が調べたのは、南アフリカのケープ半島に生息する野生の「チャクマヒヒ(Papio ursinus)」だ。

 主にアフリカ南部に生息するチャクマヒヒは、すべてのサルの中で最大級の種で、非常に知能が高いことで知られている。

 有名なのは19世紀後半に存在した「ジャック」と呼ばれたチャクマヒヒで、彼は南アフリカのヴィテンヘイズ駅で9年間鉄道の信号手を務めていたという。

 研究チームは、彼らが列を作って歩く様子を高精度のGPSを使い、36日間にわたって78の移動列を分析した。

 移動の順序が完全にランダムでないことを確認したうえで、以下の4つの仮説を検証した。

1. 弱者保護説:外敵に襲われる危険の高い子どもやメスなどを中央に配置し、強い個体が前後から守る。

2. 競争説:食べ物や水場などを早く確保するために、序列順位の高い個体や積極的な個体ほど先頭に立とうとする。

3. リーダー追従説:目的地を決める群れのリーダーに他のメンバーが従うことで、列が形成される。

4. 社会的スパンドレル説:防御や競争といったはっきりとした目的はなく、社会的つながり(仲がいい、親子関係、順位関係など)で自然と列が形成される。

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仲の良い友達と並んで歩きたかった

 観察の結果、ヒヒが隊列を作って歩く理由はされた4の「社会的スパンドレル説」であることが明らかとなった。

 仲の良い個体同士が自然と近くに寄り添った結果隊列が形成されていたのだ。

 スパンドレルとは、もともと建築用語で、アーチと壁の間にできる三角形の空間のことを指す。

 生物学では「進化によって選択されたわけではなく、他の特性の副産物として生まれた形質」を意味する。

 今回の研究では、ヒヒの隊列形成は「捕食者から逃れるため」や「資源の効率的取得」のような目的があって生まれたわけではなく、「仲の良い相手と一緒に行動する」という社会的関係の副産物として自然に生じたパターンだと解釈されている。

 この発見について、スウォンジー大学のアンドリュー・キング准教授は、ニュースリリース[https://www.swansea.ac.uk/press-office/news-events/news/2025/06/baboons-walk-in-line-for-friendship-not-survival-new-study-finds.php]で次のように述べている。

今回観察したヒヒに見られた一貫した順序は、単に誰と仲がいいか、すなわち社会的絆によって自然と順序ができているのです

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地位と関係性が移動順を決める

 さらに、社会的な地位が高く、仲間とのつながりが強いヒヒほど列の中央を仲のいい仲間と一緒に歩くこともわかった。

 一方で、社会的地位が低いヒヒは、列の先頭や最後尾に回ることが多かった。

 また、これまで先頭に立つ個体が「リーダー」とみなされることもあったが、それも違っていた。

 行先は群れ全体で共有されていることが多く、先頭のヒヒはたまたまそこにいるだけの存在なのだという。

 この研究は『Behavioral Ecology[https://academic.oup.com/beheco/advance-article/doi/10.1093/beheco/araf022/8071582?searchresult=1&login=false]』(2025年3月12日付)に掲載された。

References: Baboons walk in line for friendship, not survival, new study finds[https://www.swansea.ac.uk/press-office/news-events/news/2025/06/baboons-walk-in-line-for-friendship-not-survival-new-study-finds.php]

本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。

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