カナダヅルがカナダガンのヒナを我が子同然に育てる異種家族に注目が集まる
Cynthia Carlson/Youtube

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 アメリカ・ウィスコンシン州マディソンの湿地で、カナダヅルのつがいが、カナダガンのヒナを我が子同然に育てている様子が観察されている。

 大きなツルの親鳥のそばに、ふわふわとした黄色いガンのヒナが寄り添って歩く姿は愛らしく、現地には写真家やバードウォッチャーが連日集まっている。

 こうした異種の動物たちによる養育行動は以前から一部で知られていたが、都市近郊の湿地などで近年報告例が増えており、ヒナの成長と行く末に大きな関心が寄せられている。

カナダヅルが我が子と共に、カナダガンのヒナを育てる

 2羽のカナダヅルのつがい。その後ろには赤茶色の産毛をまとったツルのヒナがよちよちとついて歩き、そのさらにすぐ後ろに、丸くふわふわした黄色いカナダガンのヒナがついてくる。

 この不思議な組み合わせは、マディソンの小さな池で観察されている。カナダヅルのつがいが、カナダガンのヒナを自分の子のように育てているのだ。

 ウィスコンシン州マディソンでカナダヅルがカナダガンのヒナを育てているところを観察されたのはこれが初めてではない。2024年に続いて2度目である。

 2019年にはミシガン州でも観察されており、さらに2011年にはアラスカでカナダガンがツルの群れに加わって行動していたケースも確認されており、こうした異種の子育て事例は近年増えている可能性がある。

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なぜツルがガンのヒナを育てているのか?

 カナダヅルはなぜカナダガンのヒナを我が子同然に育てているのか?

 その背景には、両種の個体数回復と都市部への適応が関係しているという。

 国際ツル財団の、東部渡りルート保全プログラムを担当しているアン・レイシー氏は、近年カナダヅルとカナダガンの個体数がともに回復し、都市部や郊外にも生息域を広げていると説明する。

 郊外の湿地では芝生と自然植生が混在しており、草食性のカナダガンも雑食性のカナダヅルも利用できる場所が多くなっている。そのため両種の接触が増え、こうした異例のケースが生まれやすくなっているという。

 実は以前から異種の養育行動は起きていたのかもしれないが、近年の野鳥観察の人気が高まり、こうした現象に注目が集まりやすくなったため、増えているように見えるのかもしれないとも話している。

 今回のケースで、なぜガンのヒナがツルのつがいに育てられることになったのかは、専門家の間でも意見が分かれており、正確な理由はわかっていない。

 カナダガンがツルの巣に卵を産みつけたという説もあれば、春の洪水でツルの巣が流され、ツルがガンの巣を乗っ取ったという説もある。

 いずれにせよ、孵化直後にヒナがツルの親鳥に刷り込み(インプリンティング)されたのは事実であり、今では実の親のようにツルの親鳥に寄り添っている。

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カナダガンとカナダヅルの生態

 カナダガン(学名:Branta canadensis)は北アメリカ原産の大型のガンで、成鳥の体長は約75~110 cm、翼開長は150~180 cmに達する。

 黒い首と頭、白い頬斑が特徴で草食性。芝生や湿地、水辺などを好む。春から夏に繁殖し、秋から南方に渡るものと留まるものがいる。

 一方カナダヅル(学名:Antigone canadensis)は北米を代表するツルで、成鳥の体長は約100~120 cm、翼開長は180~200 cm。

 灰色の体に赤い額が特徴で雑食性。湿地に繁殖し、秋には最大約1500 mの高空を飛行して南方へ渡る。

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我が子同様の愛情を注ぐツル、ガンの親が取返しに来る姿も

 これらの異種親子の姿を観察している写真家たちによると、親鳥は非常に愛情深く、ガンのヒナを育てているという。

 長い脚のカナダヅルが黄色いガンのヒナを優しく世話する様子も、何度も目撃されている。ツルの親鳥は自分の茶色いヒナと同様に、黄色いガンのヒナに餌を与え、羽の下で守り育てている。

 だが、カナダガンの親鳥が何度もヒナを取り戻そうとして巣に近づき、大声で鳴きながらツルに突進する場面も観察されている。

 しかしそのたびに、ツルの父親が翼を広げて威嚇し、ヒナを守っていたという。

このような攻防戦は何度も目撃されている。

 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の鳥類学者マイケル・ウォード博士によれば、カナダヅルは非常に子育て意欲が高く、過去には赤いゴムボールを抱卵しようとした例もあるという。

 一度ヒナが孵化すれば育児ホルモンの影響で、親鳥はヒナの種に関わらず育てようとするのだ。

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カナダヅルに育てられたヒナに待ち受ける不安な未来

 異種の親子が仲良く過ごしている姿はとても微笑ましい光景だが、ヒナの将来を考えると楽観視することはできないだろう。

 カナダヅルとカナダガンでは食性が違う。

 カナダヅルは雑食性のため植物の実や種も食べるが、ヒナには昆虫やミミズ、小型哺乳類などを与えている。一方でカナダガンは草食性であり、本来は自分で草を食べる必要がある。

 観察によれば、このヒナはツルの親鳥からミミズを与えられており、草を食べる様子は確認されていない。

 また、今後の渡りの時期にも課題がある。

 カナダガンは通常、9月頃から高度300~900 mを飛行する。一方、カナダヅルは10月から11月の寒波後に、高度約1500 mを飛ぶ。

 そのため、ヒナがどちらのグループと移動するのかは不透明だ。ウォード博士も「飛行可能になるころに大きな問題が生じるかもしれない」と懸念している。

 若いヒナには、育てる親にかかわらず捕食者のリスクがある。地上性のアライグマ、キツネ、コヨーテ、空からはワシミミズクなどが襲いかかり、さらに池に棲むワニガメも脅威だ。特に早朝や夕方の採餌時には注意が必要である。

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今回目撃されたガンのヒナ、果たしてうまく育つのか?

 これまでの異種間養育事例ではいずれもヒナは生き延びることができなかった。

 ミシガン州のケースでは原因不明で死亡し、昨年のマディソンのケースでは犬に襲われて死んでしまった。

 2025年に確認されたカナダヅルのつがいは、この場所で長年繁殖し、これまでに複数のヒナを育て上げてきた経験がある。

 そのため、アン・レイシー氏は「自然界ではヒナが育たないことは一般的だが、このつがいには期待が持てる」としている。

 ウォード博士も「必ずしも死ぬ運命ではない。いずれカナダガンの群れに合流できるかもしれない」と述べている。

 レイシー氏も「ガンの群れに溶け込む可能性もある」と同意している。

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異種間の子育ては、自然保全活動の成果も関連

 こうした光景が見られる背景には、保全活動の成果も関連しているという。

 1979年には2万羽以下だったカナダヅルの個体数は2023年には約11万羽まで回復した。

 カナダガンも1970年の約126万羽から現在では約700万羽にまで増えている。

 ウォード博士は「50年前には両種ともほとんどいなかった。今こうして見られるのは保全活動の成果だ」と話している。

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References: These Sandhill Cranes Have Adopted a Canada Gosling, and Birders Have Flocked to Watch the Strange Family[https://www.smithsonianmag.com/science-nature/these-sandhill-cranes-have-adopted-a-canadian-gosling-and-birders-have-flocked-to-watch-the-strange-family-180986828/]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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