ほとんどの昆虫が認識できない「赤色」が見える甲虫2種を地中海地域で発見
赤いひなげしの花 image credit:Pixabay

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 昆虫の目は人間とは異なるしくみを持っている。人間が自然に見ている「赤色」は、多くの昆虫には見えていない。

 昆虫の視覚は、紫外線、青、緑といった比較的短い波長の光を認識するように進化してきたが、長い波長をもつ赤い光を感知する能力はほとんど備えていないのだ。

 だが、地中海地域で発見されたコガネムシの仲間、ピゴプレウルス属(Pygopleurus)の甲虫2種が、赤色をはっきりと識別して花を訪れていることが実験で初めて証明された。赤が見える昆虫が存在したのである。

昆虫はなぜ赤色を見分けにくいのか

 昆虫の目は、人間の目とは構造が大きく異なる。「複眼(ふくがん)」と呼ばれる数千もの小さな目の集合体で、光の波長を「光受容体」を通じて色を認識している。

 光受容体とは、生物の目にある、光を刺激として受け取り色を認識する細胞や器官のことだ。

 しかし、その進化の過程で昆虫の視覚は、紫外線、青、緑など短い波長の光に特化するよう発達してきた。

 赤色のような長波長の光は感知しにくく、多くの昆虫にとっては「見えない色」なのだ。

 たとえば、鮮やかな赤いヒナゲシの花に集まるミツバチなどの花粉媒介者も、実は赤色そのものを見ているわけではない。

 花びらが反射する紫外線の模様に反応して訪れているのである。

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赤い花を識別できる珍しい甲虫を発見

 そんな昆虫の色覚の常識を覆す発見が報告された。

 ドイツ・ヴュルツブルク大学のヨハネス・シュペーテ教授を中心とする国際研究チームは、地中海東部地域に生息するピゴプレウルス属(Pygopleurus)の甲虫2種、ピゴプレウルス・クリソノトゥス(Pygopleurus chrysonotus)とピゴプレウルス・シリアクス(Pygopleurus syriacus)が赤い花を選んで訪れていることに注目した。

 ピゴプレウルス属は、コガネムシに近縁な「グラフィリディ科(Glaphyridae[https://en.wikipedia.org/wiki/Glaphyridae])」に属する小型の甲虫で、体毛に覆われており、春になると活動を始める。

 主にキンポウゲやアネモネ、ヒナゲシといった赤い花の花粉を食べている。

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赤色を識別する光受容体を発見

 研究チームは、この甲虫たちが赤い花をどうやって識別しているのかを確かめるため、色彩トラップ(色で昆虫を引き寄せる装置)や行動実験、さらに電気生理学(網膜や神経の電気的な反応を測定する手法)を用いて詳しい調査を行った。

 その結果、ピゴプレウルス属の甲虫の網膜には紫外線、青、緑、そして赤色(深紅)に反応する4種類の光受容体が存在することが明らかになった。

 これにより、この甲虫たちは背景に左右されず、赤い花を「真の色覚」で識別して訪れていることが実証された。

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花と昆虫の共進化に新たな視点

 これまで、花の色は花粉媒介者の視覚特性に合わせて進化してきたと考えられていた。つまり、昆虫に「よく見える色」が花として選ばれてきたという理論だ。

 しかし今回の発見は、この理論に新たな視点を加える可能性がある。

 実際にピゴプレウルス属以外にも、同じグラフィリディ科に属するユラシア(Eulasia)属やグラフィルス(Glaphyrus)属では、赤や白、紫、黄色といったさまざまな色の花を好む種が見つかっているのだ。

 シュペーテ教授は「昆虫の色覚や色の好みは、これまで考えられていたよりもはるかに柔軟で進化の可能性に富んでいるかもしれない」と語っている。

 今回の発見は、植物と昆虫の共進化を理解するうえでも貴重な手がかりとなりそうだ。

 この研究は『Journal of Experimental Biology[http://dx.doi.org/10.1242/jeb.250181]』(2025年6月9日付)誌に掲載された。

References: These beetles can see a color most insects can’t[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/06/250617014210.htm] / When Beetles See Red[https://www.uni-wuerzburg.de/en/news-and-events/news/detail/news/beetles-see-red/]

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

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