
猫を飼っている人は、自分の猫が左右どちら側を下にしてよく寝ているのかを確認したことがあるだろうか?
国際研究チームが408本の猫の動画を分析した結果、飼い猫の3分の2、つまり60%以上が左側を下にして眠っていることが判明した。
この「左下寝」は、目覚めた瞬間に右脳が優位に働き、周囲の状況を素早く把握して、捕食者や獲物への反応を助ける可能性があるという。
研究者らは、これは進化的に獲得された生存戦略の一つかもしれないと推測している。
この研究は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00507-X]』誌(2025年6月23日付)に掲載された。
猫は左右どちら側を下にして寝る?
猫は捕食者であると同時に、もっと大きな動物にとっては獲物にもなる存在だ。だが寝子ともいうように、猫たちは1日12~16時間を眠って過ごし、生涯の60~65%を無防備な状態で過ごしていることになる。
このような状況に対応するために、猫は高い場所を選んで眠る傾向がある。
高所では捕食者から見つかりにくく、接近してくる敵は下からしか来られないため、安全かつ環境を見渡しやすいという利点がある。
猫動画を分析、左を下にして寝る猫が多いことが判明
ドイツのルール大学ボーフム校をはじめ、カナダのプリンスエドワードアイランド大学、トルコのアンカラ大学、イタリアのバーリ・アルド・モーロ大学などが参加する国際共同研究チームは、YouTubeに公開された408本の猫動画を分析した。
猫が片側を下にして少なくとも10秒間、明確に眠っている姿が映っているものを対象とし、画質や左右反転などの改変の有無も厳しくチェックされた。
その結果、266匹(65.1%)の猫が左側を下にして眠っており、右側を下にしていた猫は142匹(34.8%)だった。
これは統計的に有意な差であり、「左側を下にして眠る傾向」があることを示している。
なぜ左側が下で寝るのか?生存に有利な脳の使い方
猫が左側を下にして眠ると、起きたときに「左視野」つまり体の右側よりも左側にあるものが最初に目に入る。この左側の視覚情報は、脳の右半分(右脳)で処理される仕組みになっている。
右脳は、周囲の空間を把握したり、危険を察知してすばやく逃げたりする働きに特化している。そのため、左側を下にして寝ておくと、目覚めた直後にこうした反応がしやすくなる。
これは「半球間の非対称性」と呼ばれるしくみによるものだ。
脳の左右は同じ働きをしているわけではなく、それぞれが異なる役割を分担している。こうした違いが、寝るときの姿勢にも影響している可能性があるという。
研究を主導したルール大学のオヌル・ギュントゥルクン教授は、「睡眠は動物にとって最も無防備な状態のひとつです。脳の左右差による行動の非対称性は、生き延びるための進化的な仕組みと考えられます」と語っている。
もちろん、この研究はあくまで「集団としての傾向」を示すものであり、すべての猫が左側を下にして眠るわけではない。
実際に34.8%の猫は右を下にして寝ていた。その時の気分や環境、体調などにより変わる可能性がある。
また、調査対象が飼い猫だったことも、この結果に影響を与えているかもしれない。
野生下の環境ではなく、飼い猫は安全に暮らしているため、敵に襲われる心配も少ないことから、左側を下にして眠る必要性が薄れている可能性もある。
それにしても、「猫がどっち側を下にして寝るのか?」という疑問に真剣に取り組んだ各国の研究者たちの猫に対する愛情と情熱はひしひしと伝わってくる。
References: Upei.ca[https://www.upei.ca/communications/news/2025/06/upei-faculty-members-participate-international-study-about-left-side] / Phys.org[https://phys.org/news/2025-06-cats-left-side-survival-strategy.html] / Sci.news[https://www.sci.news/biology/cat-sleep-14013.html] / Cell.com[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00507-X]
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。