社会的圧力に抵抗することが思うほど簡単ではない理由
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 多くのアメリカ人は、社会的圧力には屈しないと信じている。だが実際には、それに抵抗することは思ったほど簡単ではないことが、オハイオ州立大学の研究によって明らかになった。

 アメリカ在住の成人約400人を対象に行われたこの研究では、「自分は他人とは違う」「自分だけは信念を貫くことができる」と考えている人が、本当にその信念を貫けるのかどうかが検証された。

 その結果、その人自身が思っている以上に、社会的圧力の影響を受けやすいことが示された。

 この研究は『Current Psychology[https://link.springer.com/article/10.1007/s12144-025-07962-1#Sec5]』誌(2025年5月29日付)に掲載された。

「自分は平均よりも上」と思い込む心理現象

 オハイオ州立大学の心理学者チームは、アメリカ在住の成人約400人を対象に、社会的圧力に人がどう反応するかを調べた。

 参加者には、権威者から理不尽な指示が出された場面を想定してもらい、自分や他人がどの段階で従うのをやめると思うか予測させた。

 多くの人は「自分は他人より早く指示に従うのをやめる」と答えた。つまり、自分は他人より社会的圧力に屈しにくく、信念を守れると信じていたのだ。

 このような思い込みは「平均以上効果(better-than-average effect)」と呼ばれる。

 「平均以上効果」とは、自分の能力や特性を、平均的な他人よりも優れていると評価してしまう心理的な傾向のことだ。

 これは能力の低い人が自分を過大評価するダニング=クルーガー効果とは異なり、自分は平均以上と思い込む心理現象だ。

 たとえば、「自分は平均よりも運転がうまい」「自分は平均よりも正しい判断ができる」と思い込んでしまうのだ。

 ほとんどの人が自分を平均以上だと思い込むため、実際にはそんなことはありえないという矛盾が生じる。

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ミルグラム実験を知っても「自分だけは従わない」と信じる心理

 今回の研究は、1960年代に心理学者スタンレー・ミルグラムが行った「ミルグラム実験[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%AE%9F%E9%A8%93]」をもとに設計された。

 ミルグラム実験では、白衣を着た権威者が「教師役」の参加者に「生徒役」に電気ショックを与えるよう命じた。

実際には電気は流れていなかったが、参加者は本物だと信じていた。

 多くの参加者は、生徒が苦しむ様子を見ながらも、権威者の指示に従い続けた。その結果、65%もの人が最高電圧までスイッチを押す「完全服従」を示し、当時大きな議論を呼んだ。

 今回の研究では、ミルグラム実験のような状況を想定させ、参加者に自分や他人がどの段階で指示に従うのをやめると思うかを予測させた。

 参加者の一部には、ミルグラム実験で65%が最後まで命令に従ったという結果を事前に知らせた。

 その結果、ミルグラム実験の結果を知った人は「他人はもっと命令に従うだろう」と予測したものの、自分自身についての予測は変わらなかった。

 つまり、実験の知識があっても「自分は従わない」という思い込みは変わらなかったのである。

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誠実な人ほど社会的圧力に屈しやすい

 研究では、参加者の性格と服従の傾向についても分析が行われた。

 その結果、誠実で責任感が強く、ルールや規範を守ろうとする人ほど、権威者の指示に従いやすいことがわかった。

 誠実さという美徳が、社会的圧力の場面では逆に弱点になることがあるのだ。

圧力に屈しないために必要なこと

「このような研究が社会にとって重要なのは、もし私たちのほとんどが『自分は権威の命令に簡単には従わない』と思い込んでしまうと、私たちを利用しようとする権威者への備えができなくなるからです」と、論文筆頭著者のオハイオ州立大学のPhilip Mazzocco[https://psychology.osu.edu/people/mazzocco.6]准教授は語っている。

 社会的圧力に備えるためには、強い圧力がかかる場面をできるだけ避ける方法を身につけたり、そうした場面に直面したときにどう行動するかあらかじめ考えておくことが大切だ。

 とはいえ、そうした場面から離れられないこともある。

 Mazzocco准教授は、日頃から好奇心を持ち、新しい視点を取り入れることで状況を冷静に見つめ直し、自分の価値観を保つことを勧めている。

 これはアメリカ人を対象とした研究結果であり、日本人にもそのままあてはまるかどうかはわからない。

 自己評価に関して「自分は平均以上」と思い込んでいる人の割合が、アメリカよりも多いのか少ないのかも定かではない。

 しかし、日本は集団調和を重んじる社会であるのは確かで、社会的圧力に屈しやすい構造があるかもしれない。

 「長いものには巻かれろ」と思考を止めてしまわず、客観的な判断ができるよう、物事を俯瞰で見る習慣をつけたいものだ。 

追記(2025/06/29) Philip Mazzocco氏のカタカナ読みをフィリップ・マッツォッコと表記していましたが、適切な発音ではないとのことなので英文字に変更いたしました。

References: Link.springer.com[https://link.springer.com/article/10.1007/s12144-025-07962-1#Sec5] / Eurekalert[https://www.eurekalert.org/news-releases/1087735] / News.osu.edu[https://news.osu.edu/why-resisting-social-pressure-is-harder-than-you-think/]

本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。

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