
北海道大学の研究者チームは、後期白亜紀の地層から発見された化石を調査した結果、当時の海の中はイカ類だらけだったという結論に達した。
2025年6月26日付の学術誌『science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu6248]』に掲載された論文によると、研究チームは、日本国内の白亜紀後期(約1億50万~6600万年前)の岩石から、イカのクチバシ、つまり「カラストンビ」の化石を大量に発見した。
白亜紀と言えば地上では恐竜が闊歩し、K-Pg境界で大量絶滅を迎えた時期でもある。当時の海の中では、いったいどんなドラマが繰り広げられていたのだろう?
北海道の岩石から大量のイカの化石を発見
北海道大学の伊庭靖弘准教授や池上森(しん)学術研究員らによる研究チームは、北海道各地の20カ所の地層で見つかった35個の岩石を調査した。
そしてイカ類の「カラストンビ」の化石約263個を発見した。
カラストンビは、イカやタコなどの頭足類の口にある、鳥のくちばしのような形をした硬い顎板のことだ。
研究チームは「デジタル化石マイニング」という最新の技術を活用し、岩の中に隠れている化石を完全な形で「取り出す」ことに成功した。
デジタル化石マイニングとは、産業用CTスキャンのなんと16億倍以上もの情報量を得られるテクノロジーである。
まず岩石をごく薄く削りながら撮影して丸ごとデジタル化。次にその内部をフルカラー・高解像度で処理し、立体的に可視化していく。
この過程で得られた画像は以下のようなものである。まず岩石の表面を削りながら連続撮影し、データとして取り込む。
次にその内部にある化石を、岩石部分を透明化しながら3D画像として再現していくのだ。
古代イカ類の「カラストンビ」からわかること
この調査の結果、平均で長さが3.87mmの、イカ類の下あごにあたる部分のカラストンビが263個も見つかった。
発見されたカラストンビのサイズから、イカ類の大きさは現存種とほぼ同じ、体長15~20cm程度と推定されている。
また、形状の特徴から、新種39種を含む40種のイカに分類できることが判明した。
この中にはハボロテウティス科・スクトテウティス科の、2つの科に属する種が確認されたという。
硬い骨格や殻を持たないイカの仲間は、ほとんど化石として残っておらず、カラストンビの化石もこれまでにたった1個しか見つかっていなかった。
イカが地球上にいったいいつ頃誕生して、どのような進化の道をたどってきたのかも、よくわかっていなかったのだ。
だが研究チームは、エビやカニの殻と同じ成分からなるカラストンビに注目。岩の中にカラストンビの化石が残されているに違いないと考えていた。
今回、調査対象となった岩石からは、アンモナイトの殻やタコのカラストンビも発見されたが、イカのカラストンビの数が圧倒的に多かったという。
白亜紀の海はイカ類だらけだった!
これにより、イカはおよそ1億年前に地球上に現れ、その後の700万年ほどの間に多様化していったと推定される。
アンモナイトが絶滅する以前から、地球の海ではイカの仲間が栄えており、魚類を含む遊泳生物中で最大の生物量を持っていたことが明らかになったのだ。
研究チームを率いる伊庭淳教授は、次のように語っている。
白亜紀の海は、従来の定説に反して、イカだらけだったことが明らかになりました。
化石に基づく従来の古生物学研究には、大きなバイアスがかかっていました。この新技術で、今後は未知の生命化石が大量に発見されるでしょう。
もろくて微小な生き物が生まれた、地球の生命進化の初期にアプローチして行きたいと考えています
デジタル化石マイニングの技術は、これまでほとんど化石が見つからなかった生物の調査を飛躍的に進め、古代の生物に関する研究の加速につながると期待されている。
なお、撮影の過程で岩石や化石の実物は削られ、永遠に失われてしまったが、データとして保存され、誰でも調べられるよう公開されることになるという。
References: Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu6248] / Hokudai.ac.jp[https://www.hokudai.ac.jp/news/2025/06/1-21.html]
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。