
ニュージーランドの海に生息する「スポッティ(Notolabrus celidotus)」は、メスからオスへと性転換することで知られるユニークな魚だ。
新たな研究では、オス化のチャンスが到来すると、それまで群れの中で2番手に甘んじていたメスが、ほんの数分のうちに性転換のプロセスを開始することが明らかになっている。
スポッティの社会行動とその脳の柔軟性に光を当てたこの研究は、性転換するほかの魚の理解を深め、より良い水産資源管理のヒントにもなるという。
この研究は『Proceedings of the Royal Society B[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2024.2097]』(2025年5月14日付)に掲載された。
オスに性転換して群れを支配するニュージーランドの魚
自然界において性転換する動物は、意外と存在する。ニュージーランドに生息するベラ科の仲間「スポッティ(Notolabrus celidotus)」もその中の1種だ。
この魚は皆、メスとして生まれてくる。ところが、20匹ほどの群れの中で一番体が大きく力が強いメスは、やがてオスになり、その群れを支配するようになる。
群れのボスがいなくなると、オス化の兆候が数分で起きる
そのオス化のプロセスは、想像以上に迅速だ。
今回ニュージーランドのオタゴ大学をはじめとする研究チームは、チャンスが到来すると、オス化の兆候がほんの数分で現れることを確かめている。
実験では、水槽で飼育するスポッティの群れからリーダーのオスを取り除き、残りのメスの中から新しいオスが出現する性転換プロセスを観察した。
すると序列2位のメスは、この権力の空白を利用するべく、たった数分のうちにオス特有の支配的行動を示すようになったのだ。
群れの中で支配的な個体は、格下に突進する「ラッシュ」と呼ばれる攻撃的な行動をとる。また時には尾やヒレを噛むこともある。一方、格下の個体は、こうした攻撃からサッと逃げる。
それまで2番手に甘んじていたメスは、群れのリーダーだったオスがいなくなると、直ちにこうした行動を取り始めるのだ。
完全にオスに性転換するには数週間かかる。
だが、オス化の兆候が現れるまで1時間はかかるだろうと予測していた研究チームにとって、わずか数分という短さは驚きだったという。
脳の働きが群れの序列に関与
今回の研究ではさらに、スポッティの社会形成における脳の役割も探られている。
そこからは、群れの序列には脳内の「社会的意思決定ネットワーク」が深く関与していることが明らかになっている。
社会的意思決定ネットワークとは、群れの中で誰がボスになるか、どんな行動を取るべきかといった社会的な状況に応じて行動を決める脳の仕組みである。
支配的地位を得た個体では、このネットワークの働きがほかの魚と大きく異なるのだ。
この発見は、スポッティの社会的行動と神経的プロセスの複雑な相互関係に新たな洞察をもたらすものだという。
性転換魚の理解や、大切な水産資源の管理に役立つヒント
今回明らかになった新事実は、群れの中で一番強い立場にあること(社会的優位性)が性転換のきっかけとなるほかの魚にも当てはまると考えられている。
またブルーコッド(タラの仲間)など、性転換魚が重要な生態的特徴である魚の養殖や漁業管理にも役立つ可能性があるとのことだ。
References: Royalsocietypublishing[https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2024.2097] / Sex swap in seconds: The fish that takes charge and changes gender[https://www.sciencedaily.com/releases/2025/06/250627095022.htm]
本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。