
砂の粒子の上に並ぶ均一で、なめらかな丸い小石。地球の川の浅瀬を覗き込めば広がっている、わりとおなじみの光景だ。
だが、よく眺めてみてほしい。何か見落としていないか? そこにはゆらぐ川の水面もせせらぎを泳ぐ小魚もない。
それもそのはず、これは最近NASAが公開した火星の写真なのだ。
火星の地表に、地球の川にあるようなコロコロとした丸い石が転がっているとは驚きだ。
2012年8月、NASAの探査ローバー「キュリオシティ」は、火星のクレーター「ゲール」に着陸。以来、標高5.5キロのアイオリス山周辺を探索してきた。
科学者がこの地域に特に関心を抱いたのは、山の周辺に形成された分厚い層が火星の過去の姿を垣間見せてくれるからだ。
そして、もしかしたらそこにかつて存在した生命の痕跡すら発見できるかもしれない。
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キュリオシティ image credit:NASA/JPL-CALTECH/MSSS
【古代の湖床で作られた丸い小石】
軌道上からは、その「グレン・トリドン」と呼ばれる地域で粘土鉱物が検出されていた。キュリオシティのおかげで、今なら間近から観察することができる。
小石は小さな泥岩で、古代の湖床で作られたものだ。
カリフォルニア工科大学の惑星科学者ヴァレリー・フォックス氏によると、大昔、水に漂っていた微細な物質が底に沈殿し、やがて長い年月をかけて岩になったものだという。
画像の中で最大の石は1.9センチほど。青みを帯びた、丸く、どこかフジツボの殻を思わせる、穴のあいた石もある。
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※画像クリックで拡大表示 image credit:NASA/JPL-CALTECH/MSSS
【火星にはかつて湖があり、岩石はその堆積物だった】
これらは火星の過去に生じたエピソードを知る手がかりとなる。
当時は湖だった粘土を含む環境は、丘の上の方を見やるほどに、乾燥が進み、水が消えていく中で鉱物や塩分が形成されたことを示す証拠が多く残されている。
山の頂上まで行けば水の痕跡はまったくなく、鉱物の形成に水が関与していたようにはとても見えない。
アイオリス山は、30億~40億年前の火星の幼少期――まだおそらく初期の地球にも似ていたかもしれぬ湖や河が存在したころから、現在の乾燥した状態へといたる進化の変遷を表しているかのようだ。
「岩石に記録された数百万年、数十億年という月日の流れを眺めることができます」とフォックス氏は話す。
キュリオシティーが撮影した火星、ヴェラ・ルービン・リッジを360度見渡せるパノラマ画像
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NASA's Curiosity Mars Rover Departs Vera Rubin Ridge (360 View)
【火星の小石はなぜ丸くなったのか?】
小石がこのような見た目になった具体的なプロセスはまだわからない。しかし地球のものと同じように、おそらくは水か風が大きく関係しているだろう。
河川の石が丸いのは、水の流れによって川下へ運ばれ、互いにぶつかりながら角が削り取られていくからだ。
風も同様にゴツゴツした角や縁を丸く滑らかにしてくれる。
ここ火星でも同じように石が削られたのかもしれない。
より小さなものについては、スフェルールである可能性も指摘されている。
スフェルールとは、岩石や鉱物が一度溶融し、空中でふたたび冷却、固化した粒子で、表面張力によって球形になることをいう。
なんらかの衝突で岩石が溶けて蒸発し、再び固まったものが雨のように落下してできたのでは? というのだ。
つまり、この1枚の画像の中に、複数の形成プロセスの証拠が写っているということもあるのである。
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image credit:NASA/JPL-CALTECH/MSSS
小石が丸くなった理由の完全な解明は今後の調査を待たねばならないが、さしあたっては、その光景が私たちの足元に広がるものとさして変わらないこと驚いてほしい。
References:Raw Images - Mars Science Laboratory / Why Does This Picture From Mars Look Like a Riverbed on Earth? - Atlas Obscura/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:かつて火星には湖があった。火星の地表に、地球の川にあるような丸い石がゴロゴロしている理由 http://karapaia.com/archives/52272851.html
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