
平成最後にとてつもないビッグニュースが飛び込んできた。既にメディアで多数取り上げられているが、このニュースを外すわけにはいかない。
天体物理学の新時代の幕開けだ。
人類はついにブラックホールの撮影に成功したのだ。
8つの電波望遠鏡を連携させた「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT/Event Horizon Telescope)」というグローバルネットワークがとらえたのは、史上初となる「M87」銀河に存在するブラックホールの姿だ。
見えないと考えられてきたものを見ることができました。ブラックホールの写真撮影に成功しました
4月10日にワシントンで開かれた記者会見で、EHTプロジェクトの代表を務めるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのシェパード・ドールマン氏は話した。
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National Science Foundation/EHT Press Conference Revealing First Image of Black Hole
【光すら逃げられないブラックホールを観察する難しさ】
ブラックホールを見ることは至難の技だ。その重力があまりにも巨大なために、「事象の地平面」と呼ばれるブラックホールの境界を超えてしまえば、光すら逃げ出せなくなるからだ。
しかし、銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールをはじめ、怪物たちの中にはガスなどの物質でできた輝くディスクをどんよくに膨れ上がらせて、己を浮かび上がらせているものがある。
EHTが捉えたのは、このディスクに映し出されたM87にあるブラックホールシャドウ(影)だ。
宇宙で一番謎めいた天体がまとう闇の深淵のヴェールが剥ぎ取られた姿は、ぼんやりとした非対称のリングのようである。
"As with all great discoveries this is just the beginning" says @EHTelescope director Shep Doeleman #EHTblackhole https://t.co/RjpPjXDt0a pic.twitter.com/ulngkjkNcz
— Physics World (@PhysicsWorld) 2019年4月10日
【一般相対性理論の正しさの証明】
その写真は、アインシュタインの一般相対性理論から予測されるブラックホールの姿と一致している。
米フロリダ大学の物理学者クリフォード・ウィル氏(研究には不参加)いわく、ブラックホールの実在を裏付けるもっとも強力な証拠であるとともに、一般相対性理論の正しさをも証明するものだ。
・宇宙ヤバイ!想像を超えたブラックホールの大きさを視覚的にわかりやすく様々なものと比較した動画 : カラパイア
これまでの研究では、一般相対性理論を検証するために、ブラックホール周辺の天体やガス雲の動きが観察されてきた。しかし、その境界を観察したものはない。
そこは一度足を踏み入れれば、いかなる実験を行なったとしても、その結果を知ることができない領域である。
「ブラックホールでは、一般相対性理論が破れる可能性が高いでしょう」と話すのはEHTチームの一員、米アリゾナ大学のフェリアル・オゼル氏だ。
この極限環境における相対性理論を検証すれば、アインシュタインの予言との食い違いを明らかにすることができるはずだ。
なお今回の写真は一般相対性理論の予測と一致していたが、それだけで「それが完全無欠」ということにはならない。
物理学者の多くは、一般相対性理論は重力理論の決定打にはならないと考えている。もう一つの物理理論、ミクロの世界の物理を説明する量子力学との一貫性を欠くからである。
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What does a black hole look like? [Updated] | Science News
【怪物の中の怪物】
この写真は、ブラックホールの大きさと重さについて新しい情報を提供してもいる。
「影をただ直接見るだけでも、かねてから続いている論争の解決に役立ちました」と蘭アムステルダム大学の理論物理学者セラ・マーコフ氏は言う。
これまで、さまざまな計測法によって、その質量は太陽の35億~72.2億倍と推定されてきたが、EHTの観測結果によれば、質量は太陽65億個分である。
さらに大きさは、直径380億キロにわたり、時計回りに回転していることも判明。「M87は大質量ブラックホールの基準に照らしても怪物です」とマーコフ氏。
EHTは、M87のブラックホールといて座A*(天の川中心にある大質量ブラックホール)の両方を観測している。
M87は地球から5500万光年離れたおとめ座にあり、いて座A*より2000倍も遠くにある。ところが、意外にもM87のブラックホールのほうが容易に撮影できた。
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おとめ座にある楕円銀河「M87」image credit:Chris Mihos/Case Western Reserve Univ.,ESO
じつは、距離だけでなく、重さも桁外れで、太陽400万個分に相当するいて座A*の1000倍もあったのだ。そのために、いて座A*よりもずっと遠くにありながら、それよりも観測しやすいのである。
【地球へ向けてポーズ】
その重力の力強さのために、M87ブラックホールの周囲に渦巻くガスは、いて座A*よりもゆっくりと、明るさを変化させながら移動している。
オゼル氏によると、いて座A*は一度の観測中に大人しくじっとしていることはないが、M87ブラックホールはきちんとポーズを取ってくれるのだという。
そうだとはいえ、いて座A*の撮影に対する期待も高い。こちらのブラックホールの変化は非常に速いために、EHTチームは新たに考案された手法によってデータの解析を進めている。
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こうした大きく異なる環境を研究することで、ブラックホールがとる詳しい挙動がいっそう明らかになることだろう。
さあ、次の瞬間、M87と天の川の怪物はどのような姿に変わるのだろうか?
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この成果は『Astrophysical Journal Letters』に掲載された6本の論文で発表された。
References:eso / eventhorizontelescope/ written by hiroching / edited by parumo
記事全文はこちら:天体物理学の新時代の幕開け!ブラックホールの撮影に初めて成功 http://karapaia.com/archives/52273110.html