土地に隠者を住まわせる。18世紀の富裕層の間でブームとなった「庭園隠者」

Wikimedia Commons/John Bigg
 18世紀前後のイギリスでは、土地持ちの貴族や富裕層の間で、奇妙な習慣が流行った。

 自宅の庭の装飾品として、ノームの像や鳥の水浴び用水盤といった無機物だけでは飽き足らず、生きている生身の人間を雇って、敷地内に建てた庵のようなものに住まわせるのだ。


 雇われた者は、庭の置物のように据え置かれ、主人が来客をもてなすときはいつも、いかにも隠遁者然とした格好をして姿を現わすことを求められた。彼らは「庭園隠者(ガーデン・ハーミット」と言われている。
【庭園隠者の求人募集】

 庭園隠者は、たいてい契約の一般的条件が明記される新聞広告を通して募集された。条件は、たいていは7年契約で、雇い主の邸宅がある敷地の庭に作られた狭い小屋や洞窟の中で質素に暮らすことが求められる。

 髪を洗う、爪を切る、敷地の境界から外へ出る、使用人と話すことは禁じられる。食べ物、水、衣服、干し草で作った寝床、聖書、読書用メガネなどの基本的な品は与えられる。契約期間の最後に、再び働かなくても十分食べていくことができる数百ポンドの報酬が支払われる。

 こうした条件を見ると、土地の所有者である雇い主は放浪者やホームレスからさぞかしありがたがられるに違いないと思うかも知れない。

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18世紀後期のドイツの庭園隠者 Wikimedia Commons
【条件よさそうに見えるが、実際には孤独できついお仕事】

 だが、実際には庭園隠者の成り手を獲得するのはとても難しかった。孤独な生活を強いられる、清潔という意識を完全に捨てる、ということは、いくらただで食べ物や寝る場所を得られるといっても、かなり厳しいことだっただろう。

 アバコーン伯爵の末息子で、高名なチャールズ・ハミルトン(1704~86)は、サリー州コブハム近くの私有地ペインズ・ホールにこの流行を取り入れるため、上記のような条件で新聞広告を出した。

 最初に雇った庭園隠者は丸々3週間はおとなしくしていたが、こんな生活に嫌気がさしたのか、地元のパブで飲んでいるのが見つかった。


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【浮浪者だけでなく様々な人が興味を持ちはじめる】

 庭園隠者募集の広告は、放浪者だけでなく、瞑想や内省、気晴らしの場を求める人の興味も引いた。

 エキセントリックなイギリスの作家、フィリップ・シックネスは、自らの庭で庭園隠者として暮らした。回顧録の中でそのときのことを彼はこう書いている。

人間の欺瞞や、飽食気味の享楽のせいで、いくら富や偉大さといった立派な宮殿を中心とする舞台設定があっても、わざとらしい庇護や偽の隠者の住まいではっきり示さない限り、完璧とは決して考えられないものなのである

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ウイリアム・ライトの「Grotesque Architecture」より、隠者の部屋(1790年頃、ロンドン)
【聖職者が隠れ住むようになったことが流行の始まり】

 レスター大学のゴードン・キャンベル教授は、パオラの聖フランチェスコ(1416~1507)がこうした流行の始まりだったと指摘する。

 彼は、自分の父親の所有地の洞窟で隠者として暮らした。のちにこうした行為はイギリスから、アイルランド、スコットランド、果てはその他のヨーロッパ諸国にも広まった。

 ジョージ王朝時代でもっとも有名な隠者のひとりは、フランシス神父だ。シュロップシア州ホークストーン・パークの石壁、藁葺屋根の庵に住み、訪れる者に知恵を説いた。

 これが評判になって、パークを所有していたヒル家は、ホークストーン・アームスというパブをつくり、あらゆる客に料理を提供した。

 すべての地主が、フランシス神父のような隠者に恵まれたわけではない。多くは、隠者を見つけるのすら苦労した。

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 新聞広告を出しても、なんの反応もない場合は、ダミーやオートメーション技術などの新しい方法を探し出す者もいた。


 フランシス神父が亡くなると、ヒル家は生身の人間のかわりに自動で動く人形を設置して、動かしたりしゃべらせたりしたようだ。

 庭園隠者の流行は、およそ200年あまり続き、18世紀にピークを迎えたが、19世紀に入るとついにすたれた。

References:Hermits As Garden Ornaments | Amusing Planet/ written by konohazuku / edited by parumo

記事全文はこちら:土地に隠者を住まわせる。18世紀の富裕層の間でブームとなった「庭園隠者」 http://karapaia.com/archives/52276697.html
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