ヒマラヤの氷河から解け出しつつある数十年来の汚染物質

image by iStock
 気候変動によって解けつつあるヒマラヤの氷河から、数十年にもわたって蓄積された汚染物質が下流の生態系へと流れ出ているそうだ。

 『Journal of Geophysical Research: Atmospheres』(6月18日付)に掲載されたその調査によると、1940年代以降、世界の氷河や氷床には殺虫剤に利用される化学物質が蓄積されてきた。
今、それが温暖化の影響でヒマラヤの氷河から流れ出ているのだという。

 流れ出た汚染物質はヒマラヤ山脈の湖に流れ込み、そこで暮らしている魚などの生物に影響を与える。生物濃縮の結果として、すでに人体にも有害なほど蓄積している恐れがあるようだ。
【ヒマラヤに見る北極のパラドックス】

 汚染物質は、大気に含まれるちり粒子や水分子に乗って長い距離を移動することができる。

 たとえば、北極や南極の氷床から、数千キロの旅路を経てたどり着いた高濃度の汚染物質が確認されている。

 こうした遠方にある汚染源が原因で汚染が進む現象は「北極のパラドックス」と呼ばれているが、それはまたヒマラヤにおいても見ることができる。

【温暖化で融解するヒマラヤの氷河】

 チベット高原の、北はカンティセ山脈・ニェンチェンタンラ山脈、南はニェンチェンタンラ山脈に挟まれたナム・コ湖は、2010年の時点で300もの氷河によって200平方キロ近くが覆われていた。

 しかし温暖化の影響で、それらは今解けつつあり、1999年から2015年の間に氷の体積は20パーセント減少した。

 そして、このために氷河に数十年にわたって蓄積されていた汚染物質が流れ出し、下流の生態系に流れ込んでいる。

[画像を見る]
NASA, Jeff Schmaltz, MODIS Rapid Response Team, Goddard Space Flight Center.
【毎年1.81キロの化学物質が流入】

 この循環をきちんと把握するために、中国科学院の地球化学者ワン・シャオピン氏らはナム・コ湖一帯で、氷河の氷雪・雪解け水・雨・湖に含まれる「ペルフルオロアルキル酸(PFAA)」を測定してみた。

 その結果、同地域の氷河から1日あたり1342ミリグラムのPFAAが湖に流れ込んでいることが明らかになった。この条件では、毎年ナム・コ湖に流れ込むPFAAの量は1.81キロになる。


 「概ね、これまでの研究で明らかにされた北極や南極の湖の量に匹敵する」と研究では述べられている。

【無視できない有害物質】

 PFAAは殺虫剤に利用される化学物質で、厄介なことに寿命が非常に長いことで知られている。そうやすやすとは生分解されず、そのために生物や生態系に簡単に侵入し、生物濃縮を経て次第に蓄積されていく。

 今回の調査では、水生生物に蓄積された毒性のリスク評価までは行われていないが、過去の研究の中にはナム・コ湖の魚を食べると健康被害が出る可能性を示唆したものもある。ナム・コ湖がインドの水資源に直接つながっていることも懸念される点だ。

 今回の調査は、汚染物質の世界的な循環の一端を明らかにしている。

 私たちが住むこの世界は広大なようでいて、閉じた閉鎖系なのだということを忘れてはいけない。地球上で排出されたものは、地球上のどこかにとどまり続ける。それは巡り巡って自分たちに返ってくるかもしれないのだ。

References:Decades-old pollutants melting out of Himalayan glaciers/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:ヒマラヤの氷河から解け出しつつある数十年来の汚染物質 http://karapaia.com/archives/52277775.html
編集部おすすめ