3つの性別を持ち、人間の致死量500倍のヒ素にも耐える線虫が発見される(アメリカ)

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 海より塩分濃度の高い塩湖の極限環境で、3つの性別を持つ不思議な新種の生物が発見されたそうだ。

 モノ湖で発見され「Auanema種」と名付けられたその生物には、人間の致死量の500倍ものヒ素の中でも生きることができ、しかもカンガルーのようにお腹の中で子供を育てるというユニークな特徴がたくさん備わっているという。


【海よりも塩分濃度の高いモノ湖で発見された線形動物】

 米カリフォルニア州イースタン・シエラにあるモノ湖は、海よりも塩分濃度が3倍高く、pH10というアルカリ性の水を湛えている。

 これまで、ここで暮らす生物はバクテリアや藻類を除けば、アルテミア(シーモンキーとして売られたエビのような生物)とアルカリハエ(Ephydra hians)の2種しか知られていなかった。

 ところがカリフォルニア工科大学の研究チームによって、さらに8種の線形動物がモノ湖で生きていると『Current Biology』(9月26日付)で発表された。

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【3つの性別があり出産する】

 線形動物は地球上でもっとも豊富に存在する動物だと考えられている。

 そこでモノ湖の過酷な環境の中でも暮らしているのではと睨んで調査してみたところ、無害な草食性のものから、寄生性ものや肉食のものまで、多様な線虫が見つかった。

 線形動物の性別はたいていシンプルなもので、雌雄同体かオスだけが存在する。ところがAuanema種の場合、メスまでおり、3つの性別が存在している。

 またオスの生殖乳頭(外性器の一種)の配置は同じ属の生物に比べると少々風変わりであるという。
 
 それだけでは不十分だといわんばかりに、なんとこの種は子供を出産することで子孫を残す。普通、線形動物は卵を産んで繁殖するので、非常に珍しい特徴なのだそうだ。

 こうした珍しい特徴について、研究チームは、極限環境で暮らしていることと無関係ではないと考えている。おそらくはモノ湖の塩辛く、アルカリ性の水の中で生きるために必要なことなのだろうという。


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【有害なヒ素に適応した線形動物】

 だが重要なのは、どの種も湖に含まれる有害なヒ素に耐性があり、極限環境生物(ほとんどの生命にとって不適切な条件でも生きられる生物)であると考えられることだ。

 さらに驚きだったのは、Auanema種が極限環境ではない普通の環境でも生きられたことだ。そのような柔軟性のある極限環境生物はほんの数種しか知られていない。

 なおAuanema種と同じ属の近縁種と比較してみたところ、ヒ素濃度が高い環境で暮らしているわけでもないのに、高いヒ素耐性が確認されたという。

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Auanema sp. Image by CALIFORNIA INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【線形動物がストレスに対応する戦略を教えてくれる】

 このことからは、線形動物には過酷な環境でも穏やかな環境でも適応できる遺伝的な柔軟性が備わっている可能性が示唆されるそうだ。

 「極限環境生物は、ストレスに対応する革新的な戦略についてたくさんのことを教えてくれます。細胞が1000個程度しかない生物が、極限環境で生き延びる術をどのようにして身につけたのか、まだまだ学ぶべきことはたくさんあります」と研究チームのシ・ペイイン氏はコメントしている。

 研究チームは今後、Auanemaのゲノムを解析して、ヒ素にも柔軟に対応できる生物学的・遺伝的要素の解明を試みるとのことだ。

References:A Worm With Three Sexes Has Been Discovered Thriving in a Nearly Lifeless Lake/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:3つの性別を持ち、人間の致死量500倍のヒ素にも耐える線虫が発見される(アメリカ) http://karapaia.com/archives/52282947.html
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