
スズメ目カエデチョウ科のキンカチョウは、赤いくちばしと羽色の配色がチャーミングで、日本でもペットとして人気の高い鳥だ。
そのリズミカルなさえずりも、押すと音がでるオモチャのようでとてもかわいらしいのだが、鳴き方は一般的に父鳥から学ぶという。
今回、アメリカの研究グループは、キンカチョウの脳に偽の記憶を書き込むことで、新たなさえずりを覚えさせることに成功したという。
この実験はもともと、音価(音の長さ)の情報をコードする鳥の脳の経路を発見することが狙いだった。
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Video: Amazing discovery shows implanted memories teaching birds a song
【光遺伝学的な手法でさえずりを覚えさせることに成功】
キンカチョウのさえずり方を覚える方法は独特だ。人間の幼児が耳で聞いたことを真似しながら言葉を学ぶように、キンカチョウも父親のさえずりを聴いてそれを真似することで歌を学習するのだ。
アメリカ・テキサス大学サウスウェスタン・オドネル脳研究所(Southwestern O'Donnell Brain Institute)のトッド・ロバーツ氏ら研究チームは、光遺伝学的な手法で記憶を植え付けることでさえずりを身につけさせることに成功した。
光で神経細胞の中にある感光性タンパク質に干渉すれば、神経細胞が発火するタイミングを操ることができる。これによって高次発声中枢に情報を送っている「Nif」という感覚運動野の活動を変えてしまうのだ。
実験では光を一定のリズムで点滅させることで、点滅の長さに相当する音の長さの記憶をキンカチョウの脳に植え付けることに成功。
それはちょうど父鳥が小鳥に歌の指導をしているようなものだった。
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【いずれは父鳥がいなくても完全にさえずり方を学べる可能性】
今回対象となった高次発声中枢と「Nif」との連携は、鳥が歌をさえずるために不可欠である、と『Science』(10月4日付)で報告されている。
鳥が歌を学習した後で両領域の連絡を断ち切ったとしても、その鳥は特に問題なく歌をさえずることができる。
ところが歌を学ぶ前に断ち切ってしまうと、何度さえずりを聴かせようとも決して歌うようにはならないそうだ。
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鳥が完全な歌をさえずるためには音価の記憶だけでは足りない。ほかにも音の高さといったメロディに関する部分も学習しなければならない。
ロバーツ氏は、
今回テストした脳の2領域は、パズルの1ピースにすぎない。そうしたピースをひとつひとつ発見することで、いずれは父鳥がいなくても完全な歌のさえずり方を教えられるようになるだろう
とコメントしている。
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【自閉症など言語学習が難しい人たちの治療への応用にも期待】
こうした鳥を用いた基礎研究は、究極的には人間が言語を覚えることを可能にしている脳回路を解明するためのものだそうだ。
この研究により、会話からピアノまで、何かを真似るときのガイドとなる記憶(行動目標記憶)をコードする脳領域を初めて確認できたということになる。
もちろん鳥のさえずりと人間の言語とでは、その複雑さの点で大きな隔たりがある。
それでもこうした研究が進めば、言語学習に関連する遺伝子や神経細胞が特定され、やがては自閉症の患者など言語の学習に難のある人たちの治療に役立てられるのではと期待されている。
References Ut southwestern/ written by hiroching / edited by usagi
記事全文はこちら:鳥の脳に記憶を植え付けて新しい歌を覚えさせることに成功。人間への応用にも期待(米研究) http://karapaia.com/archives/52283417.html
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